Talk

Talk

語る

レコードやTシャツ、アート。村上春樹が今、集めているもの

村上春樹さん、今、どんな気分ですか?

Interview: Kunichi Nomura / Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Akihiro Furuya

BRUTUS

村上さん、レコードコレクションは今でも続けていますか

村上

続けてますよ。新宿の〈ディスクユニオン〉に行くと人がいっぱいいるじゃない?だからお茶の水や神保町とかに行ってます。あっちはそんなに混んでないから。寂しいのは渋谷の〈レコファン〉がなくなったこと。あれがないとね。〈レコファン〉は大したものはないんだけど、やたら広くていっぱいある。ジャンルがノンジャンルじゃないですか。だから、あそこ行くと半日潰せたんだけどね。それが潰せなくなって、寂しい。

BRUTUS

何か最近の掘り出し物的なものはありましたでしょうか?

村上

掘り出し物……。クラシックは結構掘り出し物があります。ジャズはもうないですね。ジャズは大体もう持ってるからね。

BRUTUS

もう欲しいものはあらかた揃えてしまったので、ジャケ買いしてるっておっしゃっていたじゃないですか?ダンスしているジャケットを集めてたりとか、特定のものだけを買ったりとか。

村上

それもね、もう疲れてきた(笑)。今はクラシックの方が面白い。クラシックは価値のあるものがむちゃくちゃ安く売ってたり、200~300円とかで売ってたりするから。バーゲンコーナー見てると、結構ね。「これはすごい」っていうのが見つかります。

BRUTUS

相変わらず、村上さんのドグマみたいなものはレコードでもありますか?例えば、このくらいの値段は買わないとか、ルールが?

村上

それはもちろん同じで、ジャズの場合5000円以上、クラシックの場合は3000円以上はまず買わない。ゲーム感覚だよね。ルールがないとつまらない。ゲームの中のルールでやるのが好きなんです。だからよく値切ります(笑)。

BRUTUS

アート関連はどんなルールで集めるんですか?

村上

とにかく自分の好きなものを買う。投資目的じゃなくて、好きなものを買って、自分で見て楽しむ。絵画を集めることのいい点は、預かりものという雰囲気があることで、もちろん贅沢ではあるんだけど、贅沢という感覚はないですよね。ただ「お預かりしている」だけ。お預かりしている間は楽しませてもらってますけど、どうせもうすぐ死んじゃうんだから、僕が死んだらまたどこかに回っていくんだと。アートというのはそういうものだと思っています。

BRUTUS

所有欲みたいなものはそれほどないと?

村上

例えばランボルギーニを買うというのは、それは欲じゃないですか。1000万はするスピーカーを買うとかも。絵画に関してはそういう欲は感じないですよね。だからわりに清々しい。売るわけじゃないからね。日々見ていると楽しいんです。

BRUTUS

Tシャツはどうですか?

村上

今も買ってるんだけど、Tシャツも安いからね。「こんな安いものばっかり買ってどうするんだろう」って(笑)。僕が行くのは古着屋というよりも、安物中古衣料品店です。プレミアムとレギュラーのコーナーがあったら、ほとんど安物のレギュラーコーナーへ。
この前もGorillazのTシャツを見つけて、数百円ですごい嬉しかった。この間、アパレルショップの古着好きのスタッフと話していたら、彼女も「安物のコーナーの方がいいものがある」って言っていた。
ただそんなことしていると時間があっという間に経ってしまう。前にパリのレコード屋で会った人は、お金はあるけど、時間がない人のためにレコードを探してる商売、というかディーラーで。世の中にはお金はあるけど、暇がないというコレクターがいるんです。そういう人は不幸だと思いますね。