Love

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愛する

小林孝亘、大橋 歩、和田 誠、安西水丸、町田久美etc. 村上春樹が愛するアート作品

「レコードにジャケ買いというものがあるように、本にもそんな感覚があってほしい」と言うほど、村上作品のアートワークは印象的。装丁に関わってくれた人や知り合いの絵を集めることで始まったアートコレクション。今では好きなアーティストの個展に赴き、お気に入りを見つけては部屋に飾る。あるだけで生活が豊かになるという、村上さん所蔵、とっておきアートコレクションを公開。

Interview: Kunichi Nomura / Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Akihiro Furuya

小林孝亘

この水着の女の子のおかげで
生活が豊かになった。

日常にありそうで、どこか違和感がある小林孝亘の画風、「この水着の女の子の絵があるおかげで、ずいぶん生活が豊かになるというか(笑)。小林さんは年によって、テーマが違うんです。水着で寝転んでいる男女の絵があるかと思えば、台所のガスレンジや食器とかを描いたり、芸術家タイプというかちょっと変わった人なんですよ」。

大橋 歩

アンアンの連載でご一緒した
10代の頃の憧れの人。

『アンアン』に連載していた『村上ラヂオ』の大橋歩の銅版画。「大橋さんは僕が10代の頃の『平凡パンチ』の表紙を描いていて、一度仕事をしたいなと思ってました。銅版画なので手間がかかるんですよ。週刊だったけど、4回分をまとめて書いて、その分、大橋さんの制作時間に余裕ができたから、非常に手の込んだ絵になりました」

佐々木マキ

初期作品のビジュアル・アイコン。

『風の歌を聴け』など初期の作品の表紙といえば佐々木マキ。「高校時代、『ガロ』で読んで、素晴らしいと。すごくポップでバタくさくて、かっこよかったですね。最初の小説で編集者に“誰か表紙をお願いしたい人はいますか?”と聞かれて、“よくぞ聞いてくださいました”とマキさんにお願いしたら、引き受けてくれたんです」

和田 誠

和田さんは僕の店の
お客さんでもあった。

ポートレイト・イン・ジャズ』で和田誠が描いたジャズミュージシャンの肖像。村上さんの書斎のアイコンともなっている。上は『さよならバードランド』のもの。「和田さんは僕が店をやっている頃から、うちに客として来てて、16㎜の映画会とかよくやってました。マルクス・ブラザースとかジョン・フォードとかね」

安西水丸

ポップな感覚は
安西水丸さんとともに。

『村上朝日堂』など安西水丸とのタッグは多い。『中国行きのスロウ・ボート』のカバーは、今でも新鮮。「水丸さんは平凡社の頃からの付き合いで、装丁をお願いした時はまだ無名で、僕が指名したら編集者がすごく嫌がって、表紙ができても気に入らないって言うんだよ。昔の文学関係の感覚とちょっと違ったんだろうね」

世紀のコラボレーション!
和田誠×安西水丸。

「これは2人で言いだして、合作を始めたんです。毎年20枚くらい描いてて、個展の初日に行っては“これください!”って。和田さん(左)はいつもちゃんとした丸だし、四角だけども、水丸さん(右)は丸は歪むわ、正方形は波打つわで、適当なんだよ(笑)」

MAGU

カリフォルニアっぽい能天気さが好き。

MAGUことGilbert“MAGU”Lujánはチカーノのアートアイコン。「カリフォルニアっぽくて、すごく気に入ったんですよ、たしかハワイで買ったのかな。クルクル巻いて持って帰ってきて、日本で額装したんです」

草間彌生

実を言うとうちの奥さんの趣味なんです。

比較的大判の草間作品も村上さんのアートコレクションに。「草間さんは、実を言うとうちの奥さんの趣味なんですよね。松本市美術館まで観に行ったりしてました。松本市は草間さんのカボチャのバスが走ってるんですよね」

さくらももこ

さくらももこさんから
僕へのプレゼント。

「さくらさんは僕のファンだったらしく、サインを欲しいと編集者経由で言われたのでしてあげたら、そのお礼にくれたのがこの絵です。もらいものです」。ひょんな縁からコレクションに加わった。

落田洋子

物語性があって精緻な
世界観をみっちり描く。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の文庫本の表紙の絵は作品のイメージを具現化している。油彩でこってりと不思議な画風は独特。「落田さんの作品は映画のような凝った題がついているんです。僕は名前が覚えられない。画風が非常に女性的です。物語性があって、一生懸命、みっちりと描いていますね」

山本容子

『羊をめぐる冒険』の頃の
僕のポートレート。

村上作品では『クリスマスの思い出』など翻訳物の絵を手がけている山本容子。「この絵はたしか文春か何かで、僕をテーマに描いていただいた。『羊をめぐる冒険』の頃の僕」

町田久美

ちょっと怖くてシュールな画風。

和紙に岩絵具など、日本画の伝統的な画材や技法を使ってポップでシュールな世界を描く。輪郭がとても印象的。「『騎士団長殺し』で日本画家の話を書いて、それから日本画に興味を持ったんです。この人はなかなか不思議な感覚があって、日本画でこういった雰囲気の絵を描くという、独特な手法が気に入っているんです。町田さんの絵は色々ありますが、これ(下の写真)が一番好きです」