Talk

Talk

語る

村上春樹が語る愛蔵アートと装丁

村上春樹さんは、どうやってお気に入りのアートを見つけるのか?

Interview: Kunichi Nomura / Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Akihiro Furuya

最初は知り合いの絵を集めていたんですよ。装丁をやってもらって、それが縁で集めたり。和田誠さん、安西水丸さん、佐々木マキさん、落田洋子さんとか、そういう人の絵を集めているうちに、好きになっていきました。やっぱりどうしても好きな作家って決まってくるから、個展があったら観に行ったりして選びます。町田久美さんと小林孝亘さんの作品はまだ装丁に使ったことがないですけど。

和田さんと水丸さんがいなくなってしまって、ほかのイラストレーターってなかなかいないんですよ。今はどちらかというと漫画の世界の方が、面白いかもしれませんね。イラストレーターの時代は終わってしまったのかな。僕は純粋なタイプの立派な絵、古典の油絵とかというよりも、どちらかといえばイラストレーションに近いものの方に惹かれます。だからアートでいえば、現代美術が好きです。美術館がいくつかあったら、まずは現代アートの方を観て、それから古典というかクラシックなものを観に行きます。

僕はレコードコレクターで、レコードってジャケ買いとかあるじゃない?小説もジャケ買いしてくれればいいな、って感覚があるので、表紙のデザインには最初から注文つけて、自分で決めてやっていたんです。『風の歌を聴け』の佐々木マキさんとか、昔は描いてほしいと思う人はいっぱいいたんですが。なかなか今はね。年齢的なこともあるかもしれないけど、同じ世代の感覚というのはわかりやすいんだけど、どうしても離れるとわかりにくくなっていくというのはあるので、見つけるのは難しい。僕も最初の頃はポップ風の文体だったけど、年をとるに従ってだんだんと変わっていくんで、そうすると今までの絵とはちょっと違うかなと。それからいろいろと模索が始まるんです。なかなか難しいですね。

最近は出版社の装丁部が充実していて、任せていることが多いです。いろんな作家を見つけてきてくれる。そこから「これいいね」って決めてることが多い。『猫を棄てる』の高妍さんもそうです。どうしてもこの人に描いてもらいたいと。彼女が台湾の方だっていうのも大きいね。台湾の人が僕の子供時代の日本の風景を描くっていうのはすごく面白いです。なんか不思議な味が出ていて。

惹かれるものは同じようなものです。物語はあるんだろうけど、その物語が語り切られてないという雰囲気のものが好きですね。

やっぱりいいのは、まだそれほど有名じゃない作家の絵を、「これいいな」と買ってる頃が一番いいですね。だからまめにふらっと個展とかに行ってます、ただ、なかなか気に入ったものには巡り合わないものです。