『スローターハウス5』
(単行本刊行時のタイトルは『屠殺場5号』)
ヴォネガットはサイエンス・フィクションからの「異業種乱入」みたい。
現在では『スローターハウス・ファイブ』という題名で刊行されている。日本で本書の初版が刊行されたのは1973年(原書は1969年にアメリカで刊行)、僕がまだ大学生の頃だ。
当時は音楽や映画の世界で、若者たちの共感・支持を得る作品やアーティストたちが続出していたが、小説の世界では今ひとつ動きが鈍かった。そこにようやく風穴を開けたのがヴォネガット、ブローティガン、そしてフィリップ・ロスの3人だった。
とくにヴォネガットはサイエンス・フィクションからの「異業種乱入」みたいなところがあり、そのストーリー展開の「普通じゃなさ」、独特のとぼけたユーモア感覚、そしてそこに漂う淡い哀しみ、それらはどこまでも斬新だった。
当時ヴォネガットが我々に突きつけたのは、「この世界、どこまでがシリアスで、どこからがシリアスではないのですか?」という問いだった。そう、そんな線引きなんてできっこないのだ。