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村上春樹の私的読書案内『Evening』

村上春樹が自宅書棚から選んだ、手放すことができない51冊の本。私的な読書案内文と共に。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Haruki Murakami

『Evening』

文章がなにしろ美しいのだ。

僕はとくにスーザン・マイノットの小説の熱心なファンというわけではないが、この本は読んでめっぽう感心した。文章がなにしろ美しいのだ。彼女は決して物語の先を急がないし、それでいて物語の流れをわずかも淀ませることはない。ミステリアスな伏線もあるけれど、それが読者を戸惑わせるようなことはない。ほんとにうまいなあ。

いつ、どこでこの本を買ったんだっけなあ、と思って書棚から引っ張り出してみたら、なんと最初のページにマイノットさんのサインが入っていた。「ハルキ・ムラカミに。ニューヨークでともにラブリーなeveningを過ごせて嬉しかった。スーザン・マイノット。1998年10月26日」とある。

そうだ、そういえば、すっかり忘れていたけど、ニューヨークの〈92ndStreet Y〉という会場で、2人共同の朗読会を開いたのだ。そのときに著書にサインをもらった。待合室で少し話をしたけれど、とても素敵な女性だったと記憶している。忘れちゃいけない。

『Evening』Suzan Minot/著