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村上春樹、激動の1年を語る。2022年最新インタビュー

BRUTUS特別編集ムック 合本 村上春樹』から、野村訓市さんが村上春樹さんに行った8ページに及ぶ最新インタビューの冒頭部分をお届け。世界は激動の1年、村上さんはどう過ごしていた?

photo: Keisuke Fukamizu / interview & text: Kunichi Nomura / edit: Akihiro Furuya

毎月の『村上RADIO』のせいか、いつも身近だが、2021年10月の村上春樹特集からのほぼ1年、村上さんの近況を僕らは知らない。いたって平常営業だというものの、パンデミックのこと、戦争のこと、ハワイのこと、そしてヤクルト優勝のこと。村上さんはこの1年の思いを淡々と語り始めました。

BRUTUS

去年、10月に『BRUTUS』で村上さんの特集号を作ってからちょうど1年経ったんですけども。そこからの1年がどんなだったか、今日は細かく伺いたいです。急に生活が変わったりはしてないとは思うんですけど。

村上春樹(以下、村上)

はい。

BRUTUS

去年の10月にちょうど、早稲田大学に村上春樹ライブラリーがオープンしました。

村上

ライブラリーは、この1年けっこう忙しかったです。『Authors Alive!』という朗読会やったり、それから『キャンパス・ライブ』という音楽の催しやったり。まあ、一応ライブラリーもいろんな催しが軌道に乗ってきて、面白いことがいろいろできてくるようになって。9月28日には白石加代子さんの『雨月物語』の朗読というのがありまして、蝋燭も灯してやりたかったんだけど、許可が下りなくて。

BRUTUS

ちゃんと雰囲気出してやるんですね。

村上

屋外でやるんですよ、早稲田大学演劇博物館のベランダ(正面舞台)で。僕も白石加代子さんの『雨月物語』のファンなんで、すごい楽しかったです。本当に怖いんですよね(笑)。で、先日はゴスペラーズがライブをやって。観客40人ぐらいかな。アカペラでやるとちょうどいいんですよ、あの大きさがね。

BRUTUS

村上さんが企画全体にかなり関わったりしてるんですか?

村上

というか、ゴスペラーズは黒沢(薫)さんという人が、ジムが一緒なんで。

BRUTUS

声をかけたんですか。

村上

はい。しかも5人のメンバーのうち3人が早稲田の出身なんですよ。ライブラリーがあるあたりで、響きのいいとこを見つけて練習していたと。

BRUTUS

やっぱりライブラリーに参加される方は早稲田縛りとかあるんですか?(笑)

村上

いや、そんなこと別にないですけど、たまたまね。その前にやってくれた真心ブラザーズも、ライブラリーになった建物に軽音楽部の部室があったんですが、そこで練習していた人たちなんです。それ以外だとリチャード・ストルツマンさんって、アメリカのクラシックのクラリネット奏者とマリンバ奏者のミカ・ストルツマンさんもご夫妻でやってくれました。お2人はロバート・キャンベルさん(早稲田大学国際文学館顧問)の関係で来てくれたんですが、とてもよかったですね。

BRUTUS

村上ライブラリーではもう随分とライブをやられてるんですね。

村上

そうです。山下洋輔トリオはライブラリーではキャパが小さいんで、会場を大隈講堂に移してやったんだけど、すごく盛り上がって楽しかったです。

BRUTUS

毎月何かしらイベントをやってるんですね。

村上

何かやってますね。やっぱり、動かしていかないとね、ただ本を飾っているだけじゃつまらないから(笑)。

村上春樹の東京の事務所
2021年、新しくなった東京の事務所。内装は建築家の隈研吾さんによるもの。隈さんのシグネチャーとも言える木のルーバーや障子のような天窓。本棚には世界中で発行されている村上作品がぎっしり。

ライブラリーはまずは個人の力で動かしていく。

BRUTUS

村上さんも、毎月必ずライブラリーに行ってると。

村上

うん、行ってます。一応プロデュースというか、そういうことをしてます。

BRUTUS

どのくらいの頻度で行かれてるんですか?

村上

月1くらいかな。やっぱり最初ですから、うまく始動させないと、大学というのは組織が大きいからね、なかなか敏速には動かないんですよね。

BRUTUS

ああ、なるほど。

村上

だから最初は個人の力でさっさか動かしていかないと。ある程度動きだしたらね、あとはうまく誰かがやってくれると思うんだけども。

BRUTUS

朗読会も、もう何回もやられているんですか?

村上

結構やってます。ただ日本って、朗読会の文化がまだアメリカみたいに確立してないから、そのへんは何かと難しいです。

BRUTUS

今後、絶対これはやりたいみたいな野望はあるんですか?

村上

野望ねぇ。ハウス弦楽四重奏団とか、ハウスピアノトリオみたいなのが欲しいなとは思うけど(笑)。

BRUTUS

それはかなりの野望だと思います(笑)。

村上

弦楽四重奏とかやるのには大きさがちょうどいいんです。だからそれを定期的にやりたいなと思うんですけど。一度やったんですよ。小澤征爾さんの音楽塾のオーケストラからの選抜メンバーでカルテットを組んでもらってやったんですけど、これも楽しかったです。

BRUTUS

コロナも落ち着いてきて、大学の活気は戻ってきました?

村上

うん、随分と。観客制限なんかもしないで済むようになったからね。スタジオを使ってラジオの収録もやったり、いろいろ楽しくやってます。もう、何かけようかと選曲するのが楽しい。

BRUTUS

一番最初にお会いした時、次の日に聴くレコードを前日の夜に選ぶとおっしゃっていましたが、ラジオ番組でかけるレコードはどのくらい時間をかけて選んでいるんですか?

村上

半日あればね。データに取り込んで、それをfirestorageで送り込む作業を半日ぐらいでやります。

BRUTUS

それ、村上さんがすべてやられてるんですか!

村上

そうなんです、全部自分でやってます。アナログに関しては、放送局よりうちで入れた方が音がいいかもしれない。

BRUTUS

(笑)。アナログをデータ変換する機材とかも買ったんですね。

村上

買ってきました。今、安いんですよ。昔だと数十万円していた機械が、今は3万円ぐらいで結構いいのが買えちゃうんですよ。

BRUTUS

ちなみに、2017年に『カーサ ブルータス』のオーディオMOOKで伺わせていただいてから、オーディオ機材に変化とかあるんですか?何か新しいアンプを足したとか。

村上

いや、それはないですね。ずっと同じものを使ってます。

BRUTUS

この新しい事務所にもターンテーブルはあるんでしょうか?

村上

ターンテーブルはないです。ここはCDだけ。趣味的なものをここでは聴いたりはしないから。

BRUTUS

ちなみにここでは何を聴くんですか?

村上

ここでは、誰かから送られてきたCDとか、そういうものを聴いたりします。一応、チェックはしないと。