毎月の『村上RADIO』のせいか、いつも身近だが、2021年10月の村上春樹特集からのほぼ1年、村上さんの近況を僕らは知らない。いたって平常営業だというものの、パンデミックのこと、戦争のこと、ハワイのこと、そしてヤクルト優勝のこと。村上さんはこの1年の思いを淡々と語り始めました。
BRUTUS
去年、10月に『BRUTUS』で村上さんの特集号を作ってからちょうど1年経ったんですけども。そこからの1年がどんなだったか、今日は細かく伺いたいです。急に生活が変わったりはしてないとは思うんですけど。
村上春樹(以下、村上)
はい。
BRUTUS
去年の10月にちょうど、早稲田大学に村上春樹ライブラリーがオープンしました。
村上
ライブラリーは、この1年けっこう忙しかったです。『Authors Alive!』という朗読会やったり、それから『キャンパス・ライブ』という音楽の催しやったり。まあ、一応ライブラリーもいろんな催しが軌道に乗ってきて、面白いことがいろいろできてくるようになって。9月28日には白石加代子さんの『雨月物語』の朗読というのがありまして、蝋燭も灯してやりたかったんだけど、許可が下りなくて。
BRUTUS
ちゃんと雰囲気出してやるんですね。
村上
屋外でやるんですよ、早稲田大学演劇博物館のベランダ(正面舞台)で。僕も白石加代子さんの『雨月物語』のファンなんで、すごい楽しかったです。本当に怖いんですよね(笑)。で、先日はゴスペラーズがライブをやって。観客40人ぐらいかな。アカペラでやるとちょうどいいんですよ、あの大きさがね。
BRUTUS
村上さんが企画全体にかなり関わったりしてるんですか?
村上
というか、ゴスペラーズは黒沢(薫)さんという人が、ジムが一緒なんで。
BRUTUS
声をかけたんですか。
村上
はい。しかも5人のメンバーのうち3人が早稲田の出身なんですよ。ライブラリーがあるあたりで、響きのいいとこを見つけて練習していたと。
BRUTUS
やっぱりライブラリーに参加される方は早稲田縛りとかあるんですか?(笑)
村上
いや、そんなこと別にないですけど、たまたまね。その前にやってくれた真心ブラザーズも、ライブラリーになった建物に軽音楽部の部室があったんですが、そこで練習していた人たちなんです。それ以外だとリチャード・ストルツマンさんって、アメリカのクラシックのクラリネット奏者とマリンバ奏者のミカ・ストルツマンさんもご夫妻でやってくれました。お2人はロバート・キャンベルさん(早稲田大学国際文学館顧問)の関係で来てくれたんですが、とてもよかったですね。
BRUTUS
村上ライブラリーではもう随分とライブをやられてるんですね。
村上
そうです。山下洋輔トリオはライブラリーではキャパが小さいんで、会場を大隈講堂に移してやったんだけど、すごく盛り上がって楽しかったです。
BRUTUS
毎月何かしらイベントをやってるんですね。
村上
何かやってますね。やっぱり、動かしていかないとね、ただ本を飾っているだけじゃつまらないから(笑)。
ライブラリーはまずは個人の力で動かしていく。
BRUTUS
村上さんも、毎月必ずライブラリーに行ってると。
村上
うん、行ってます。一応プロデュースというか、そういうことをしてます。
BRUTUS
どのくらいの頻度で行かれてるんですか?
村上
月1くらいかな。やっぱり最初ですから、うまく始動させないと、大学というのは組織が大きいからね、なかなか敏速には動かないんですよね。
BRUTUS
ああ、なるほど。
村上
だから最初は個人の力でさっさか動かしていかないと。ある程度動きだしたらね、あとはうまく誰かがやってくれると思うんだけども。
BRUTUS
朗読会も、もう何回もやられているんですか?
村上
結構やってます。ただ日本って、朗読会の文化がまだアメリカみたいに確立してないから、そのへんは何かと難しいです。
BRUTUS
今後、絶対これはやりたいみたいな野望はあるんですか?
村上
野望ねぇ。ハウス弦楽四重奏団とか、ハウスピアノトリオみたいなのが欲しいなとは思うけど(笑)。
BRUTUS
それはかなりの野望だと思います(笑)。
村上
弦楽四重奏とかやるのには大きさがちょうどいいんです。だからそれを定期的にやりたいなと思うんですけど。一度やったんですよ。小澤征爾さんの音楽塾のオーケストラからの選抜メンバーでカルテットを組んでもらってやったんですけど、これも楽しかったです。
BRUTUS
コロナも落ち着いてきて、大学の活気は戻ってきました?
村上
うん、随分と。観客制限なんかもしないで済むようになったからね。スタジオを使ってラジオの収録もやったり、いろいろ楽しくやってます。もう、何かけようかと選曲するのが楽しい。
BRUTUS
一番最初にお会いした時、次の日に聴くレコードを前日の夜に選ぶとおっしゃっていましたが、ラジオ番組でかけるレコードはどのくらい時間をかけて選んでいるんですか?
村上
半日あればね。データに取り込んで、それをfirestorageで送り込む作業を半日ぐらいでやります。
BRUTUS
それ、村上さんがすべてやられてるんですか!
村上
そうなんです、全部自分でやってます。アナログに関しては、放送局よりうちで入れた方が音がいいかもしれない。
BRUTUS
(笑)。アナログをデータ変換する機材とかも買ったんですね。
村上
買ってきました。今、安いんですよ。昔だと数十万円していた機械が、今は3万円ぐらいで結構いいのが買えちゃうんですよ。
BRUTUS
ちなみに、2017年に『カーサ ブルータス』のオーディオMOOKで伺わせていただいてから、オーディオ機材に変化とかあるんですか?何か新しいアンプを足したとか。
村上
いや、それはないですね。ずっと同じものを使ってます。
BRUTUS
この新しい事務所にもターンテーブルはあるんでしょうか?
村上
ターンテーブルはないです。ここはCDだけ。趣味的なものをここでは聴いたりはしないから。
BRUTUS
ちなみにここでは何を聴くんですか?
村上
ここでは、誰かから送られてきたCDとか、そういうものを聴いたりします。一応、チェックはしないと。