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毛綱毅曠によるポストモダンの最高傑作「反住器」。母のために設計された家

独自の宇宙観を建物で表現しつづけた建築家、毛綱毅曠が母のために建てた家、反住器。間取りという概念が吹き飛ぶような立体構成の家で、35年を過ごしてきた母のもとを訪ねる。

初出:BRUTUS No.639『居住空間学2008 小さくてわがままな部屋。』(2008年5月1日号)

photo: Mitsumasa Fujitsuka / text: Tami Okano

東京で花見を終えて行ったのに、この日の釧路は風速33mの暴風雪。それもどこ吹く嵐。家の中は暖かく、風の音も聞こえない。迎え入れてくれた毛綱はるさんは、家のちょうど真ん中あたりにペッタリ座って誇らしげに言う。

「雨風なんて全然平気。丈夫でね、静かでね、びくともしない」

独自の宇宙観を建物で表現しつづけた建築家、毛綱毅曠が母のために建てた家。御年93歳のその母は、箱の中に箱が浮かぶ宇宙とともに35年を過ごしてきた。天井を含め三面三隅に集められた窓が向かい合い、室内は万華鏡の中みたいに明るい。「天気のいい日は青空が、雲の移ろいも月も見える」

名作を見に訪れる客をもてなしてきた思い出も彼女にとって大切な家の一部。「息子は早く逝ったから親不孝半分。でも、いろんな人が来てくれるこの家を建ててくれたから親孝行半分。おかげで元気でいられる、ありがたい家です」

建築家・毛綱毅曠が母のために建てた家の室内
サンルームのような明るい廊下。2006年に近代建築の記録と保存を目指すドコモモに認定された。