カッコつけたい夜に観たくなる、ダンスシーンがあるから
コロナ禍が始まったばかりの頃、大学の授業がリモートになってしまって、家でずっと映画を観て過ごしていたんです。ハル・ハートリー監督の『シンプルメン』に出会ったのは、そんな時期。
失踪した父親を探す兄弟の姿をオフビートに描いた作品なんですが、中盤、バーみたいなところで、1人の女と2人の男が突然ダンスを踊り始めるシーンがとてつもなく好きで、ここだけ少なくとも30回は観直しています。
3人のダンスは別にうまくないし、どちらかといえばグダグダ(笑)。だけど、とてもクールに見えるんです。それはバックでソニック・ユースの「クール・シング」が流れているというのもあると思いますが、それ以上に、俳優たちが湧き上がる欲望に素直に従って、自由にやっているのが伝わってくるから。
1人でいると、自分に対して無性にカッコつけたくなる夜が、私にはあるんです。3人が誰かのためではなく自分のために踊っているこのシーンは、そういう気分の時に観直すのにぴったりなんです。
作品全体を通して好きかというと、そうでもないかもしれません(笑)。だけど、この数分のシーンがあるだけで、私にとってはとても大切な作品なんです。