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木工作家・三谷龍二がもう一度観たい映画と、その理由。『はちどり』

観るたびに新たな発見があったり、人生の変化に気づいたり。名作とは、何度観ても、また観たいと思わせてくれる作品のことかもしれません。映画を愛する木工作家・三谷龍二さんが繰り返し観る、人生の伴走者ともいうべき一本とはどんな映画なのでしょうか?

text: Masae Wako

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今の時代を生きる救いになる、日常の美しさがあるから

舞台は1994年のソウル郊外。学校に馴染めず、家族からもはじかれているような疎外感でいっぱいの中学2年生、ウニが主人公です。

自由にならない日常を小さい体で一生懸命受け止めながら、「好きな漫画を描いて、寂しい人たちに元気を届けたい」と彼女は言う。僕も全く同じ思いで木の器を作っているから、わかるんです。『はちどり』には、今の日本にも通じるどうしようもない閉塞感と、それでも奪われることのないかすかな救いがある。

素晴らしいのは、そういった日常を伝える映像の語り口です。しみじみいい。淡々としてドラマティックではないのに、本質が真っすぐ伝わります。

僕はその文体みたいなものに惹かれているのですが、4回ほど観て気づいたのは、大切なシーンの前に必ず、音のない沈黙の場面が入ること。沈黙があるから、日常のささやかな出来事にも輪郭が出る、そうやって観直すと味わい深いですよ。

いちばん好きなのは、辛いことや言葉を呑み込むことが続いたウニが、誰もいない家で音楽をかけて、めちゃくちゃに跳ねたり踊ったりするところ。きっとそれが、明日からの生きる力になるんですね。この物語を観るたび、坦々と続いていく日常の美しさに思いを巡らせています。

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