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美学者・伊藤亜紗がもう一度観たい映画と、その理由。『ベイビー・ドライバー』

観るたびに新たな発見があったり、人生の変化に気づいたり。名作とは、何度観ても、また観たいと思わせてくれる作品のことかもしれません。映画を愛する美学者・伊藤亜紗さんが繰り返し観る、人生の伴走者ともいうべき一本とはどんな映画なのでしょうか?

text: Sogo Hiraiwa

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音楽にノるように主人公の“ノリ”を借りたいから

普段は時間があれば、新しい作品を観る方です。でも、たまに好きな音楽を繰り返し聴くように観る映画があって、『ベイビー・ドライバー』もそのうちの一本。最初は映画館で観て、それ以降は家で何度も観ています。

ジャンルとしてはアクションと結びついたミュージカルですが、この映画が少し特殊なのは、主人公のベイビーが「歌っている人」ではなく「音楽を聴いている人」ということ。だから観ていると、ベイビーに一体化するんですよね。音楽を聴くことで巫女のように“なにか”を自分の体に下ろしている彼にシンクロする気持ちよさ、というか。

前に建築家のレム・コールハースの文章を読まないと、自分の文章がうまく書けない時期があったんです。この映画を繰り返し観る理由もそれと似ていて、たぶんノリを借りたいんだと思います。音楽にノッてるベイビーのノリを借りて、推進力を得る。元気がない時に音楽を聴くのと似ているかもしれません。

サントラもよく聴いているので曲を聴くだけで、ベイビーがその曲を聴いている時の気分になれる。それでも映画で観直すのは、映像が音楽をアンプリファイしているからかもしれないですね。数日前に観返したらスイッチが入って、またずっと観てます(笑)。

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