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食文化のハイブリッド。ミクスチャー料理が食べられるお店4選

料理は人がその地で生きてきた証し。人々の交流により育まれた料理には歴史的背景や異郷での創意工夫が宿る。ラオスとの国境沿いでタイの他地域と異なる農耕料理が発達したイサーン地方、華僑の人々がインドやマラッカで浸透させた中華料理の概念など。そんな“ミクスチャー料理”の奥深さをご紹介。

photo: Kiichi Fukuda / text: Koji Okano (SOMTUM DER YOYOGI, Makan Makan), Yoko Fujimori / edit: Yoko Fujimori

イサーン料理(タイ×ラオス)

山岳地帯の農耕民族が紡ぐ、もち米と辛味の食文化

山がちな地形と農業人口の多さなど、隣接するラオスと多くの共通点を持つタイ東北部のイサーン。その料理は往来も盛んな隣国と同じく強烈な辛味が特徴だ。〈ソムタム ダー代々木店〉は伝統工芸が店内を飾る人気の専門店。

シェフのサコンさんいわく「郷土食のソムタム(パパイヤサラダ)は、タイ中部のように砂糖の甘さを強調せず、たまり魚醤・パラーと唐辛子を効かせ、辛味と塩味を打ち出します」。また炒めた挽き肉に香辛料やハーブ、炒りもち米などを混ぜたサラダ・ラープも代表的な皿。辛味が白飯を進めるが、主食がタイ米でなくもち米(カオニャオ)なのもラオスと同様だ。

マンチュリアン料理(インド×中国)

マサラの国に浸透した独自の“インド中華”

最近、注目を集めるインド中華。18世紀、インド東部のコルカタに移住した広東系客家人により初の中華街が誕生。彼らが伝えた料理が現地でアレンジされ定着した。マンチュリアン(=満州風)はその代表的ジャンルだ。

コルカタ出身の〈マハラニ〉店長・カジさんは南インドの一流ホテルでインド中華部門を担当。「スパイスでなく、ショウガ、ニンニク、赤唐辛子、白コショウ、インド醤油などを使うのが特徴」。店では、揚げたカリフラワーをピリ辛ソースで絡めたゴビ・マンチュリアンや中華風にグレービーなとろみをつけた野菜団子スープなど、“インド人が愛する中華”が楽しめる。

延辺料理(中国×北朝鮮)

中国東北地方に根づいた朝鮮文化の美食の地

延辺料理とは、北朝鮮との国境に面した中国東北部・吉林省の延辺朝鮮族自治州で育まれた料理。代表格は香ばしくスパイシーな羊肉串。羊のカルビにクミンや唐辛子などスパイスをまぶした串を、炭火で焼くのが鉄則だ。

千里香〉は東京の先駆的一軒であり、吉林省延吉市出身の代表・木村明月さんは、「故郷の羊肉料理を広めたい」と25年前に来日した。ジャガイモの粉で作る黒い皮の土豆餃子も名物で、プルプルもちもちの食感に驚く。麺にそば粉を加えた延辺風冷麺やトウモロコシ麺、スンデや酢豚も故郷の味。唐辛子とニンニクが結ぶ、東北地方と朝鮮伝統料理のミクスチャー文化だ。

ニョニャ料理(中国×マレーシア)

東西の美味が融合する、古都マラッカ発祥の味

15世紀以降、中国とインドを結ぶ貿易拠点として栄えたマレーシアの古都・マラッカ。ここで中華系移民と結婚したマレー女性はニョニャと呼ばれ、その家庭で育まれた料理はマレー半島全域に伝播した。

日本で本格的なニョニャ料理を出す稀少な店の一つ〈マカンマカン〉のシェフ・ジェームズさんいわく、「スープ麺のラクサのように、マレーでお馴染みのココナッツミルクと塩漬け干しエビの発酵調味料・プラチャン、中国の醤油が使われた料理が多いです」。主食のナシレマに添えるアチャも野菜を干してから浸けるなど、手の込んだレシピが多く、今や本国でも提供する店が限られるとか。