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美術デザイナー・三ツ松けいこが二度と観たくない名画『岬の兄妹』

中毒性が高すぎたり、作り手であるがゆえに嫉妬してしまったり……。映画のプロたちが2度目をためらうほど、強烈な映画体験をもたらす傑作とはなんだろうか。美術デザイナー・三ツ松けいこに聞いた、もう二度と観たくない名画とは。

text: Emi Fukushima, Yoko Hasada

描かれる現実問題があまりにリアルだから

現実をとてつもなくリアルに捉えていて苦しい、けれど人間味に溢れたあったかい作品です。生きるためやむを得ず、足の不自由な兄は自閉症の妹に売春を斡旋します。

筋書きだけを追うと悲劇のどん底にも思いますが、妹にとってセックスをする=仕事をすることは、必ずしも不幸ではないのではと考えさせられる余白のある展開が見事です。そして役者さんのお芝居も素晴らしくて、心の綺麗さが天使のような笑顔に表れていて印象的です。

さらに美術の目線で言えば、2人が暮らす汚れた家の作り込みも徹底しているし、複数の中学生たちに襲われた兄が自分のうんちを投げつけて応戦する笑えるシーンもあって。多くの魅力を持つ名作ですが、やっぱり観終えた時は心にズシリとくるものがある。2度目を観るには時間が必要かなと思います。

『岬の兄妹』
足に障害のある良夫はある日、勤め先をクビに。生活のために手を出したのは自閉症の妹・真理子への売春の斡旋だった。'18日/監督・脚本・製作:片山慎三/出演:松浦祐也、和田光沙ほか。TCエンタテインメント/4,180円(DVD)。