愛って、一瞬の幻
20代前半の頃、天王寺の二番館で観た。携帯電話もインターネットもなく、暇な時はひたすら街をうろついていた。映画館ではたばこをくゆらせてるお客もいて、よく床にビールの空き缶が転がっていた。フィルム上映で画質は悪かった。劣悪な環境だった。
主人公は警官だが汚職に手を染め、若い愛人もいて、妻のことを愛してはいるが、妻には愛想を尽かされかけている。
捕らえようとした「蜘蛛女」である女マフィアの誘惑にもあっさりと引っかかったり、ひたすらダメな男であるが、男の甘さと優しさを若いゲイリー・オールドマンが実にうまく演じている。
自分の弱さですべてを失い、名前も変え、田舎でカフェをやり、歳をとって何の希望もなく細々と生きている彼は、それでも妻が戻って来る日を夢見ている。
ラスト近くで一瞬、彼の元に妻が訪れるシーンに泣いた。妻は彼が見ていた幻だった。劣悪な中だからこそ、切ない愛が眩しかった。
大阪にいて、恋人なんか作ったらすぐ結婚してしまって何にもできないとその頃思っていたし、心から愛せる人なんて自分にはできないだろうなとも思っていた。そのくせ、女は時々買っていた。
今、この映画を観た天王寺近くに住んでいる。時々、気まぐれに恋人の仕事帰りを待ち伏せしたりする。
愛が幻にならないように。