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世界的トレンドのスピリッツ「メスカル」を愛し広める、2人の店主対談が実現!

ここ数年、日本でもようやく認知され始めている、メキシコ原産のアガベ・スピリッツ「メスカル」。プレミアム・テキーラと同じ100%アガベの原料を使いながら、より原始的で自然な製法で生み出される少量生産のお酒は、クラフトブームも手伝って、すでにヨーロッパやアメリカでは要注目のスピリッツとなっている。このメスカルを積極的に紹介している〈TEQUILA BAR Gatito〉の伊藤裕香さんと〈万珍酒店〉などを営むMANGOSTEEN代表の齋藤大典さん。2人がメスカル片手に、底知れぬ“メスカル愛”を語った。

photo: Masayuki Nakaya / text&edit: Asuka Ochi

どうして、アガベ・スピリッツにのめり込むのか

伊藤裕香(以下、伊藤)

アガベ・スピリッツ専門のバーを初めて11年になりますが、実は、もともとテキーラが大嫌いだったんです。あらゆるお酒の中で最も苦手で、匂いも嗅ぎたくないほどでした。当時、若い時に散々ショットで飲んだりしていたものだけが、テキーラだと思っていたんですよね。

齋藤大典(以下、齋藤)

僕も最初は苦手でしたね。悪い思い出しかなくて。

伊藤

でも、15年ほど前に〈ドン・フリオ〉という銘柄のプレミアム・テキーラ(アガベ・アスール100%を原料とするテキーラ)を初めて飲んで、その時も恐る恐るだったんですけど、すごく美味しくて5〜6杯は飲んで。

その翌日、お酒が全く残っていなくて。そこからテキーラはすごいと、自分で買い集めて人に飲んでもらったりしていて、それが高じて脱サラしてバーを始めるまでに至ったんです。

齋藤

僕はお酒自体があまり得意ではなくて、以前は美味しいとも思わなかった。しかも弱いから、すぐに吐いてしまったりしていて。ただ、昔から旅が好きで、仕事という理由を付けて海外へ行くために、お酒の輸入の免許を取ったんです。

最初は人づてでオーストラリアのオーガニックワインなどを扱っていましたが、ボアダムスというバンドのYOSHIMIちゃんがメキシコに行ってメスカルを飲んでハマって、すごくいいお酒があるからぜひ仕入れてほしいと教えてくれた。

NYでもメスカルが流行っているというのを同時期に他の知人からも聞いて、メキシコにも行けるしいいかもと思って、実際に現地まで触れに行ったんです。そうしたら、僕が飲んでも全然吐かない。お酒が残らないのも自分にとっては初めての経験でした。

伊藤

テキーラやメスカルが好きな人ってお酒に強いと思われがちですけど、実は真逆で。それしか飲めなかったりもするんですよね。テキーラ協会の会長も下戸でずっとお酒が飲めなかったそうですが、ハリウッドで映画の仕事をした時に、クランクアップでショーン・コネリーに無理やり飲まされたのがプレミアム・テキーラで、そこからテキーラだけは飲めるんだとわかってハマったそうです。

齋藤

面白い逸話ですね。僕もメスカルしか飲まないのでよくわかります。アガベ100%のスピリッツって、分解のされ方が違うんですよね。口に入れた瞬間から分解が始まって、肝臓までアルコールが届かないくらいの早さなんじゃないですかね。

伊藤

分解が早いのでゆっくり飲んでいると、ずっといい酔い心地のところを漂っていられるんですよね。

齋藤

僕にメスカルを教えてくれたYOSHIMIちゃんも、ミドルとハイの間をずっと行き続ける感じと言っていて、まさにそうだなと。本当に軽いのでボディを効かせるためにチェイサーで軽いビールを飲んでもいいくらい。昔の悪い日本酒なんかだとクダを巻いたりする人が出てきたりもしますが、メスカルを飲んでネガティブな現場になったことって、まずないですね。体にも響かないし、心も軽くなる。単なるアルコールで片付けられない、特別な影響もあるなと思います。

クラフト最上級のメスカルは今、世界的トレンドに

メスカル
対談中に飲んだのは、アガベの王様と呼ばれる野生品種「トバラ」を使った女性の造り手によるブランド〈Altares De Mi Tierra〉。〈万珍醸造〉のアルコール度数4%、塩とライムが入りのクラフトビールをチェイサーに。

伊藤

私はここ数年で、原料のアガベがすごいというところに辿り着きました。スピリッツには多くの種類がありますが、アガベ・スピリッツはワインに近くて、原料の良し悪しがお酒の味にダイレクトに出る。樽で香り付けしないホワイト・スピリッツの状態で、こんなに複雑な旨味があるのも本当にユニークだなと思います。

齋藤

テキーラは工場生産されますが、メスカルは掘っ立て小屋のような場所で、全ての菌を取り入れざるを得ない環境で造られている。それが複雑な旨味にも繋がっているのかもしれませんね。水を入れたらすぐに自然発酵するので、相当強い在来菌がいるんじゃないかなという気もします。

伊藤

ほとんどのメーカーが古典的な製法で、蒸留器も小さな甕(かめ)のようなものを使っていたりもしますよね。もともとは量り売りで飲まれていたようなローカルな地酒で、こうしてボトリングして世界で飲まれるようになったのは、ここ数十年のこと。そこから急速に広まってはいますが、生産量自体は本当に少ないんですよね。だから、高価なのは当然で。

メキシコのメスカルの蒸留所の数はテキーラの3倍以上あるそうですが、生産量でいえばテキーラの10分の1にも満たないと聞いたことがあります。

齋藤

それはすごいですね。

伊藤

本当ですよね。今や日本のバーでも、海外のゲストが必ずメスカルのカクテルを頼むと聞きますし、世界では、アガベのお酒全体がウォッカを抜く勢いで浸透しているそうです。それほどにメスカルは世界的なトレンドになっていて、ヨーロッパにもメスカル・バーがたくさんできていますが、日本ではまだまだ認知度が低いですよね。でも、日本でここまで浸透したのは〈万珍酒店〉さんのおかげだと思っています。

齋藤

それは嬉しいですね。でも本当にまだまだで、こんなに魅力的なお酒が先進国の割に浸透していないというのは残念ですよね。

日本産のアガベ・スピリッツが飲める日が来る!?

伊藤

私はテキーラの悪いイメージを払拭するためにも、原料をきちんと知ってほしいと思っています。多くの人が、サボテンから造られていると勘違いしていたりするので……。それで昨年から、沖縄のアガベ畑を会場に、アガベを眺めながらアガベ・スピリッツが楽しめる『AGAVE SUMMIT(アガベサミット)』を企画しています。今まで沖縄ではアガベが育たないとされていましたが、農家さんが土を改良して栽培を成功に導いたんです。

アガベ畑
沖縄中部の〈GREEN FIELD OKINAWA〉で育てているアガベ。

齋藤

台風が来たり、雨が降ったりするような土地でも、土を工夫すれば育つんですね。あとは原料となる「ピニャ(球茎部分)」がどこまで育つかですよね。

伊藤

3年前に2000株を輸入して植え始めて、今は順調に育っていますが、原料になるまでにも最低でも6年ほどはかかるのでまだまだですね。でも実は、この沖縄のアガベはお酒を造るために育て始めたわけではなくて、植物会社の社長さんがメキシコに行った時、アガベ畑を見てカッコいい!と感動して、これを自分たちの街でも再現したいというところからスタートしたものなんです。

齋藤

そうなんですね。〈MANGOSTEEN HOKUTO〉のある山梨県北杜市も日照時間が日本一なので、ついこの間、試験的にアガベを植えたところです。

伊藤

いつか日本でアガベ・スピリッツができるかもしれないというロマンがあって、楽しみですよね。今、インドやペルー、ハワイなどでも、アガベ・スピリッツが生産されているので、日本で造るのも夢ではないのかなと思います。

齋藤

メキシコの田舎で造られているお酒が、〈万珍〉の2店舗目がある北杜市明野町のような場所で飲まれているというのもロマンがありますよね。行く行くは、飲みに来てくれる地元のおじさんたちにもメスカルをボトルキープしてほしいなと。それって鹿児島県の片田舎で造られた生産量の少ない焼酎が、メキシコで飲まれているのと同じようなことですから、面白いなぁと。

アガベ畑で飲んで、アガベを知り尽くすサミット!

齋藤

『AGAVE SUMMIT』では、どんな企画が開催されるんですか?

伊藤 

アガベ・スピリッツをベースとしたカクテルを、新宿〈BARベンフィディック〉の鹿山博康さんをはじめとする5人のゲスト・バーテンダーが提供する他、メスカルやテキーラにまつわるスペシャルなトークも柱として3本立てで企画しています。

また、本場メキシコの死者の日に被せた開催とあわせて「生と死」を裏テーマに、オーダーメイドで棺桶を制作する〈GRAVE TOKYO〉による「入棺体験」や、メキシコ女性による舞踏ショー、エイサーの演舞もあって、メキシコと沖縄の両方の文化に触れられる一日になりそうです。沖縄にも「シーミー」と言って毎年4月にお墓で宴会をする面白いお墓参りの文化など、メキシコの死者の日と少しつながるものがあるんですよね。

齋藤

泡盛で使う蒸留器もメスカルと同じ形式だし、お酒としてアッパーなところもメスカルと似ていますよね。11月25日で山梨の〈MANGOSTEEN HOKUTO〉も1周年で、盛大なカラオケ・パーティを開催しようとバタバタしていますが、アガベ畑も見てみたいし、なんとか行きたいですね〜!

伊藤

ぜひー。なんとか来てほしいです!