昭和のモダン・ボーイのダットサン
宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』。賛否両論、読み解き、さまざまあるが、ワタシはこれは彼自身の“ファミリーヒストリー”だと感じた。もちろん、映画は彼が創作したファンタジーで、私小説ではない。でも、主人公には彼自身が投影されているし、その父と母は自身の両親をベースに描いているのは明白だ。なかでも、父のことを生々しく描いていることに惹きつけられた。
戦争が始まって3年。小学生の眞人は、母ヒサコを火事で亡くす。軍需工場を営む父ショウイチは母の妹ナツコと再婚。物語は、そこから亡母と新しい母をめぐる異世界での冒険が展開する。が、ワタシが気になったのは、戦争に乗じて工場を広げ、稼ぎまくる豪放磊落な父ショウイチと眞人、つまり、宮﨑駿と父の関係性である。
宮﨑駿の実家は航空機関連の工場を経営していたことはよく知られている。戦時中は映画同様、戦闘機の部品の製造でかなり儲けていたという。宮﨑は冒頭の発言も含め、自身の父についてメディアでこんなふうに語っていたことがある。「アナーキーで、享楽的で、権威は大嫌い。デカダンスな昭和のモダン・ボーイ」で、女性にも非常にモテたし、「こんな映画を観たとかストリップへ行ってきたとか、そういうことを平気で家でしゃべる男」でもあり、「ぼくは絶対こういう男にはなるまいと思った(笑)」。そして、灰色だった戦前を「いい時代だった」と振り返る父を受け入れることができなかったともいう。ただ、彼自身、親を理解したいと、飛行機の設計家・堀越二郎を主人公にした『風立ちぬ』を描くことで、「国はどうであれ、自分の家族を必死に守ろうとする男だった」と思うようになったという。
映画では、ショウイチが最新型のダットサンを運転するシーンが登場する。“モダン・ボーイ”の駿パパも乗っていたはずで、ショウイチのようにエイヤとねじ伏せるように駆っていたに違いない。
齢80を越え、父と向き合った宮﨑駿。これが最後なのか。いいや、ここからじゃないか。