「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:ルノー・4

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第23回。前回の「リンカーン・コンチネンタル」も読む。

text & illustration: Izumi Karashima

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少女とアラサー男の人生を乗せる小さなクルマ

「クルマを借りた。町中を走っておばあちゃんの家を探そう」「どんなクルマ?」「ルノー」「お金なんてないくせに」「期限切れの小切手を使ったらバレなかったんだ」。

ルノー・4(キャトル)が印象的な映画といえばヴィム・ヴェンダースの「ロードムービー3部作」の1作目『都会のアリス』(1974年)だ。

アメリカ旅行記を書くため1973年製のプリムス・サテライトを走らせ放浪していたドイツ人ライターのフィリップ。出版社に催促されるも一行も書けぬままに軍資金が底を突き、ニューヨークに到着するとプリムスを売り払い、ドイツに帰国するため空港へと向かう。そこで同じくドイツに帰ろうとしていた9歳の少女アリスとその母親リザに出会い、翌日の出発までアリスを預かってほしいとリザに頼まれる。

しかしリザは戻ってこなかった。フィリップは仕方なくアリスを連れてドイツへ向かい、アリスのおぼろげな記憶を辿り祖母の家を探すことに。そこで冒頭の台詞とともにフィリップが借りてきたキャトルが登場する。仕事も恋もスランプに陥っているダメ男とマセた口を利く少女、アンバランスな2人のクルマ旅が始まるのだ。

フィリップは、プリムスでアメリカを放浪していたときはただただ漠然と移動していた。ラジオを聴き、モーテルやガスステーションに立ち寄り、建物や標識などクルマ越しに見える景色をボンヤリと眺め、ポラロイドで撮っているだけだった。でも、アリスを乗せキャトルを運転する彼は生き生きとしている。地図を広げ、家を探し、川で泳ぎ、アリスと一緒に証明写真を撮り。大きなアメ車ではなく小さなフランス車だからこそ、彼らの間に不思議な連帯感が生まれるのだろう。それは、疑似親子というより、友人のようであるのが面白い。

映画のラスト、フィリップはアリスに言う。「物語を書き上げるよ」。アリスはこう返す。「どうせ落書きでしょ」。

生意気でかわいいアリスを演じたイェラ・ロットレンダーは、『タクシードライバー』におけるジョディ・フォスター並みの天才子役だが、彼女はその後、ミュンヘンの大学で医学を学び、現在はスイスの病院で内科医長をしている。彼女自身の「物語」を聞いてみたくなった。

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