「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:BMW 733i

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第16回。前回の「シボレー・コルベット スティングレイ」も読む。

text&illustration: Izumi Karashima

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BMWはモンスターと
“闘える”クルマ

自分の知らない過去の音楽に出会うと、「未来の音楽だと感じる」と語っていたのは小西康陽さん。ケイト・ブッシュが1985年に発表した「Running Up That Hill(邦題:神秘の丘)」が2022年のいま、欧米のヒットチャートで1位を獲得しているのはまさにそれだ。現代に生きる私たちが過去からやってきた「未来の音楽」に心を動かされている。

爆発的にヒットしている理由は、直接的にはNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のシーズン4で印象的に使用されているからだが、歌の世界観とわれわれを取り巻くこの現実が、図らずもピタリとシンクロしてしまったことも大きい。そう、私たちの世界はいま、“裏側の世界”に吸い込まれつつある。

『ストレンジャー・シングス』は、80年代のスピルバーグやスティーヴン・キング作品へのオマージュが満載のドラマで、メインの登場人物たちの設定も『グーニーズ』的な70年代生まれの少年少女たち。彼らと同世代で当時をリアルに体験してきた者としては、アメリカのティーンの80sファッションや音楽、彼らを取り巻くカルチャーや「気分」が驚くほど正確に描かれているのが面白く、懐かしい。

シリーズのプロデューサーであるダファー兄弟(双子)は84年生まれ。まるで当時のハイスクールを経験していたかのように描けるのはタランティーノばりのオタクゆえだろう。

ということで、ドラマのクルマも80年代のアメリカでフツーに乗られていた大衆車、シボレー・K5ブレイザーやシボレー・カマロ、フォード・ピント、フォード・ギャラクシー、トヨタ・カムリなどが頻出するのもワタシ的にはツボである。そして高級セダンのBMWの733iが大活躍するのもいい。

“裏側”からやってくるモンスターと闘うには不釣り合いだが、クルマの所用者であるスティーヴ(実際は親のクルマだけど)が、金持ちのドラ息子キャラからメンバーとともに闘う“みんなの兄貴”へと成長する、その過程を描くための重要な“配車”でもあるのだ。

ケイト・ブッシュ好きの少女マックスはワタシの一番のお気に入りキャラ。シーズン4では死線を彷徨(さまよ)うところで終わった。どうか「丘を駆け上がって」ほしい。

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