タランティーノが愛した
「マイ・ホンダ」。
八百長試合の約束を破り大金をせしめたボクサーのブッチ。恋人ファビアンと高飛びをしようとするが、父の形見の金時計を家に忘れてきてしまう。ブッチはファビアンの“マイ・ホンダ”に乗りアパートに戻る。すると待ち伏せしていた殺し屋ヴィンセントとはち合わせてしまう。
ジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンが演じる殺し屋コンビ、ヴィンセントとジュールスを中心に4つの話がバラバラの時系列で絡み合う『パルプ・フィクション』(1994年)。クエンティン・タランティーノの出世作にして大傑作である。
タランティーノは『レザボア・ドッグス』(92年)で監督デビューし注目されたわけだが、それ以前の下積み時代は、ロサンゼルスのレンタルビデオショップ〈マンハッタン・ビーチ・ビデオ・アーカイブス〉の店員だったことは知る人ぞ知る。
そのときにいつも乗っていたのがファビアンの“マイ・ホンダ”と同じシビックだった。『パルプ・フィクション』ではブルース・ウィリス演じるブッチがめちゃめちゃに壊してしまうけれど。
ちなみに、ハーヴェイ・カイテル演じる掃除屋ウルフは“マイ・アキュラ”ことホンダNSXで登場。ヴィンセントたちが間違って殺してしまった死体をテキパキと処理し、再びNSXで颯爽と去っていくのがなんともカッコいい。
タランティーノはシビックに強い思い入れがあるようで、『パルプ・フィクション』以降もたびたび映画に登場させている。『ジャッキー・ブラウン』(97年)ではジャッキーのクルマとして出てくるし、『キル・ビル Vol.2』(2004年)にもチラリと映る。
『デス・プルーフinグラインドハウス』(07年)でも登場するし、オムニバス映画『フォー・ルームス』(95年)では、映像には出てこないが「白いシビック」が重要なキーワードとして語られる。
単純に「シビックが好き」だからなんだろうと思うが、ビデオショップ時代に映画三昧の日々を過ごし映画を“偏愛”したことがシビックとともに心に深く刻まれているのかもしれない。シビックは今年で50歳。11代目の現行モデルに初代の面影はもうない。それは20年に登場したEV車「ホンダe」に受け継がれている。