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「愛って、友人同士でも育まれるもの」。作家・山内マリコが選ぶ、愛の映画『愛しのアクアマリン』

愛の映画を語る時、その人が理想とする愛の形が見えてくる。作家・山内マリコさんに聞いた、愛と映画の話。

text: Emi Fukushima

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愛って、友人同士でも育まれるもの

私が作家として向き合い続ける題材の一つが、女性同士の友情。今でこそ“シスターフッド”という言葉も広まり、多くの作品で折り込まれていますが、私が小説を書き始めた2000年代は「女性作家は異性愛を描くべき」とされる時代。日の当たらないテーマでした。

方向性を模索するさなかで観たのが『愛しのアクアマリン』。ローティーンの少女2人が、“3日間で愛する人を見つけること”を父親と約束し人間界にやってきた人魚のアクアマリンのため、憧れの青年レイモンドと彼女との恋を実らせようと画策する筋書きです。

キラキラしたティーンムービーながら、画期的だったのは結末。結局レイモンドとの間に愛を見つけられなかったアクアマリンは、無理やり元の世界に連れ戻されそうになるのですが、少女たちは捨て身で彼女を助けようとする。そこに確かな友愛が認められ、父親の許しを得ます。

そのラストが示すのは、同性同士の友情も一つの愛の形だということ。ディズニー映画が幾度も踏襲し、女性に課してきた“プリンス・チャーミングとの愛を掴(つか)む”ミッションを払拭する展開に、当時衝撃を受けました。と同時に作家として「こんな愛を描いていいんだ」とも。

愛の解釈を広げ、進む道を照らしてくれた原点の映画です。血縁や契約に起因しない友人同士で育まれる愛は、遠い国で苦しむ人々を思う心にも拡大していく可能性を持つもの。こうした極めて寛大な愛情にこそ、私は尊さを感じます。

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