年中旅をしている。目的は、食べ歩きである。東京でも、各店から料理を取り寄せ、土地の酒と合わせて思い出を蘇らせる。
雪国の発酵文化を堪能する
ある日は、雪深い新潟の〈里山十帖〉で、桑木野恵子料理長が、発酵食品を駆使して作った料理で酒を飲んだ。「かぐら南蛮味噌」は、新潟の唐辛子・かぐら南蛮を田舎味噌と合わせて発酵させたものである。辛味と共に味噌と南蛮の甘みが広がって、酒が恋しくなる。すかさず、まろやかな「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」を飲めば、甘みが膨らんで、瞼の裏に雪景色が広がる。
![新潟〈里山十帖〉の「かぐら南蛮味噌(プレミアム赤)」、〈八海醸造〉純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年](https://brutus.jp/wp-content/uploads/2022/10/f6b44e68e83155785175e6c57007a876.jpg)
山梨に吹くフランスの風を体感
ある日は、勝沼でワイナリー巡り。五味丈美さんが営む〈ミル・プランタン〉で、ビストロ料理に地ワインを合わせたと思い出し、「信玄どりもも肉のコンフィ」と「2020 ルバイヤートシャルドネ『旧屋敷収穫』」を取り寄せた。皮の香ばしさとモモ肉の旨味に、シャルドネの豊かな果実味、蜂蜜のような香り、丸い酸味が出会って旨味を増幅し、目前に葡萄(ぶどう)畑が広がる。
![山梨〈ビストロ・ミル・プランタン〉信玄どりもも肉のコンフィ、〈丸藤葡萄酒工業〉2020 ルバイヤート シャルドネ「旧屋敷収穫」](https://brutus.jp/wp-content/uploads/2022/10/891f5ee93b7dda21cbac76fbf74f593b.jpg)
湖国・滋賀の豊穣を感じる
ある日は、余呉湖(よごこ)の〈徳山鮓〉で、熊鍋やら鰻、鮒鮓を相手に、日本酒を痛飲した。それを思い出し取り寄せたのは「うなぎ茶漬け」である。ふんわりとした身を噛みしめると、天然川魚のしぶとさが顔を出す。実山椒の痺(しび)れと濃厚な甘辛さと鰻の滋味が抱き合い、太く、しぶとい味が舌を刺す。「七本鎗 無農薬純米 無有(むう)」の燗酒と合わせれば、米本来の甘みが口の中で花開き、鰻の野性を包み込む。時が緩み、鏡湖といわれる余呉湖の光景が見えてくる。
![滋賀〈徳山鮓〉うなぎ茶漬け、〈冨田酒造〉七本鎗 無農薬純米 無有](https://brutus.jp/wp-content/uploads/2022/10/10652790ad13c02693691aa462a2e616.jpg)
薩摩名物が奏でる味の競演
ある日は鹿児島の割烹〈山映(さんえい)〉で、上品な薩摩料理を食べながら美人女将が薦める薩摩焼酎を飲んだ。「鯛山椒のさつま揚げ」がいい。品のある鯛の甘さが広がり、山椒のアクセントが憎い。そこへ「夕 SEKI」のお湯割りを流し込む。焼酎と鯛の品が心を優しく撫で、日常の汗を落とす。ああ、また鹿児島に行きたいなあ。
![鹿児島〈割烹山映〉鯛山椒のさつま揚げ、〈コセド酒店 南栄本店〉夕 SEKI](https://brutus.jp/wp-content/uploads/2022/10/0b718869637cac6601b44205ca2638bd.jpg)
甘美なマリアージュで南国を思い出す
ある日は石垣島の〈辺銀食堂〉で泡盛を飲んだ日々を思い出す。取り寄せたのは、砂糖も塩も島産を使い、米に圧力をかけて膨らませたポン菓子「石垣島のはちゃぐみ」である。この菓子は手が止まらなくなる菓子だが、そこに「おもと8年古酒43度」を合わせるとさらにいけない。泡盛のバニラ香が菓子のキャラメル風味と出会って、気がつけば空になっている。まあそうなっても、大丈夫さあ。
![沖縄〈ペンギン食堂〉石垣島のはちゃぐみ、〈高嶺酒造所〉おもと8年古酒43度](https://brutus.jp/wp-content/uploads/2022/10/4e2934b7c347e852edc14c05653c41fb.jpg)