年中旅をしている。目的は、食べ歩きである。東京でも、各店から料理を取り寄せ、土地の酒と合わせて思い出を蘇らせる。
雪国の発酵文化を堪能する
ある日は、雪深い新潟の〈里山十帖〉で、桑木野恵子料理長が、発酵食品を駆使して作った料理で酒を飲んだ。「かぐら南蛮味噌」は、新潟の唐辛子・かぐら南蛮を田舎味噌と合わせて発酵させたものである。辛味と共に味噌と南蛮の甘みが広がって、酒が恋しくなる。すかさず、まろやかな「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」を飲めば、甘みが膨らんで、瞼の裏に雪景色が広がる。

山梨に吹くフランスの風を体感
ある日は、勝沼でワイナリー巡り。五味丈美さんが営む〈ミル・プランタン〉で、ビストロ料理に地ワインを合わせたと思い出し、「信玄どりもも肉のコンフィ」と「2020 ルバイヤートシャルドネ『旧屋敷収穫』」を取り寄せた。皮の香ばしさとモモ肉の旨味に、シャルドネの豊かな果実味、蜂蜜のような香り、丸い酸味が出会って旨味を増幅し、目前に葡萄(ぶどう)畑が広がる。

湖国・滋賀の豊穣を感じる
ある日は、余呉湖(よごこ)の〈徳山鮓〉で、熊鍋やら鰻、鮒鮓を相手に、日本酒を痛飲した。それを思い出し取り寄せたのは「うなぎ茶漬け」である。ふんわりとした身を噛みしめると、天然川魚のしぶとさが顔を出す。実山椒の痺(しび)れと濃厚な甘辛さと鰻の滋味が抱き合い、太く、しぶとい味が舌を刺す。「七本鎗 無農薬純米 無有(むう)」の燗酒と合わせれば、米本来の甘みが口の中で花開き、鰻の野性を包み込む。時が緩み、鏡湖といわれる余呉湖の光景が見えてくる。

薩摩名物が奏でる味の競演
ある日は鹿児島の割烹〈山映(さんえい)〉で、上品な薩摩料理を食べながら美人女将が薦める薩摩焼酎を飲んだ。「鯛山椒のさつま揚げ」がいい。品のある鯛の甘さが広がり、山椒のアクセントが憎い。そこへ「夕 SEKI」のお湯割りを流し込む。焼酎と鯛の品が心を優しく撫で、日常の汗を落とす。ああ、また鹿児島に行きたいなあ。

甘美なマリアージュで南国を思い出す
ある日は石垣島の〈辺銀食堂〉で泡盛を飲んだ日々を思い出す。取り寄せたのは、砂糖も塩も島産を使い、米に圧力をかけて膨らませたポン菓子「石垣島のはちゃぐみ」である。この菓子は手が止まらなくなる菓子だが、そこに「おもと8年古酒43度」を合わせるとさらにいけない。泡盛のバニラ香が菓子のキャラメル風味と出会って、気がつけば空になっている。まあそうなっても、大丈夫さあ。
