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作家・大前粟生が選ぶ6冊。淡い憧れや共感、これって恋なの?

定義がないのが恋。視野を広げれば、身近なあの関係もこの感情も、その範疇に入るのかも。著書『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』などで“恋する気持ちがわからない人”を描き、恋と恋らしきものの境界を探り続ける作家の大前粟生さんに、ヒントとなる6冊を選んでもらった。

Photo: Kaori Oouchi / Edit: Emi Fukushima

恋の本質に迫るヒントは
緊張関係と心の揺れ動き

価値観が多様化し、「恋」は男女間のものだと画一的に描くことの暴力性に人々が気づき始めた今、その解釈が問い直されています。そもそも恋とは、当事者たちの非対称性や同一性、支配/被支配といった関係性やメンタルに関係するもの。原点に立ち返ると、恋とは何であるか、本質が見えてくる気がするんです。

例えば、私の大好きな詩集『美しいからだよ』では、人と人、人とモノの、互いに取り込み合って未分化な状態が表現されています。その曖昧な関係の中にも支配/被支配の緊張感が光っていて、不穏さの中に恋と似たものを感じます。

そして、支配/被支配の関係が社会制度と人の関係に重なるのが、小説集『愛が嫌い』の収録作「生きるからだ」。主人公は、一種の記憶喪失によって従来の価値観がリセットされ、自身に流れていた男性優位の家父長制的な社会性を失った男です。

新たに得た主体性のなさによって彼は異性にモテることになるんですが、以前の人格や取り巻く社会を見ていると、男性たちは家父長制への懐古的な恋心を抱いているようにすら思えます。

さらに一歩進んで、自分と恋愛をしているようにも解釈できるのが『世界で一番すばらしい俺』。自意識と破滅願望に満ちた歌集で、イジメや偏見、劣等感など、自らを取り巻くダークな状態を描きつつも、そうした自分を受け入れていく、いわば“自己愛の再構築”と言えそうです。

一方で、一見恋を描いているようで、少し異なる関係が浮かび上がる作品もあります。
例えば、漫画『A子さんの恋人』。ニューヨークにいる恋人と、東京にいる元カレの間で揺れるえいこさんを主人公にした恋の物語と思いきや、描かれるのは関係への“クソデカ感情=処理し切れない重めの感情”。

関係が進み人間の心理が巡ることで、恋とは似て非なる歪な関係が際立っていく。これも「恋らしきもの」と言えるかもしれません。

恋との接点は、身の回りのあらゆる関係性に潜んでいます。「恋らしきもの」を見つめることで改めて、自分なりに恋とは何かを考えるきっかけになる。そうして、あたらしい時代のあたらしい「恋」をそれぞれが作っていけるのだと思います。

大前粟生の「恋の、答え。」

「SF映画『ロブスター』(2015年)です。パートナーを見つけなければ体を動物に変えられてしまう近未来の社会が舞台ですが、恋心を模索する僕には動物になる方が魅力的に思えて。何になりたいかなとずっと悩んでいます」