「ロンドンのジャズシーンは、ここ数年どんどん細分化しているね。ジャズやアフロビートなどのジャムセッションは、相変わらず大盛り上がり。僕らと同世代の若いミュージシャンは演奏技術が高い半面、新しい刺激が欲しいから、誰でもステージに上がれるジャムが流行っているんだよね。あと、レゲエやグライムなど、ダンスミュージックとのクロスオーバーも盛んなんだ。
その中で、僕らはエレクトリックなビートと生演奏を交差させたジャズトロニカというジャンルをやっていると思っている。アルファ・ミストやジョーダン・ラカイといったミュージシャンに特にシンパシーを感じているよ。ほかの国に比べていろんなジャンルが溶け合って新しい音楽を作っているのがロンドンの一番の特徴かな」と語るのはNK-OK。
〈ブルー・ラブ・ビーツ〉は2013年に結成しているが、当時彼らが出会ったキッカケは、現在の豊かなUKシーンを支える教育機関の賜物でもあるとMr.DMは語る。
「僕らはベルサイズ・パークにあるウィークエンド・アーツ・カレッジ(以下WAC)で出会ったんだ。WACでは、プロダクション、ボーカルなどのレッスンが2時間2ポンド(1ポンド=約160円 ※2023年2月現在)で受けられた。25歳までの低所得家庭の若者向けで。講師の中にはアカデミックな教育を受けた人もいて、演奏面、レコーディングの技術など、いろいろなことを学ぶことができたね」
NK-OKはその環境を存分に生かしたという。
「僕は12歳の時から通っていて。もともと、父が音楽家(Dインフルエンスのクワメ・クワテン)、母はDJだったから、音楽に明るい家庭だったんだ。でも、ビートメイクに関しては詳しくなくて、調べてみるとWACがあったから通ってみたんだよね。ある日、待合室でビートを鳴らしていたら、DMが通りかかり、セッションに誘ってくれたんだ。ほかにもロンドンにはTomorrow's Warriorsという無料で受講できる教育プログラムがあって、若手ミュージシャンが続々と躍り出るハブになっているね」
ルーツに立ち返る、ロンドンのミュージシャンたち
2018年にデビューアルバム『Xover』を発表。ブレイク前夜のヌバイアやモーゼス・ボイド、ココロコのリッチー・セイヴライトなど、現在のUKジャズシーンを語るうえで欠かせないミュージシャンが多く参加している。
「当時は道端やレコード屋なんかで仲間に会うと“今からジャムしようよ”とか言って、そのままスタジオでセッションしていたよ。そんな中に、ファーストアルバムの『Xover』のアイデアになったパートもある。それぞれの個性をリスペクトして共演することが僕らにとっては一番大きいんだ。ロンドンのストリートには、さまざまな国の人が集まり、ミックスカルチャーが形成されている。食やファッション、音楽もまたしかり」と言うMr.DM。
実際、NK-OKはガーナ、Mr.DMはナイジェリアをルーツに持つ。
「たまたま現地に撮影で行った時に、超かっこいい衣装を着せてもらったから、気に入って、そのまま買い取った。今日着ている衣装がそうだね。ルーツはすごく大切にしている。そのうえで色使いやデザインが独特だから、すごくいい。ただの民族衣装ではなく、国柄が反映されたカラーリングを、現代的なデザインに落とし込んでいて。そういう面でも、僕は音楽的にも共感できるんだ。
ガーナの服に、アディダスの最新モデルを組み合わせたりして。僕らの音楽はジャズらしさもあるけど、ヒーリングミュージックを意識して作っているよ。僕らのルーツであるアフリカの優しい旋律や、ピアノの音色などをミックスしているんだ」
誰でも参加可能なジャムこそロンドンシーンの魅力
活動内容を聞いていると、ロンドンのシーンの熱が伝わってくる。ジャムセッションをはじめ、ライブシーンも盛り上がっているため、今年は地元でのイベントにも参加したいとMr.DMは言う。
「ブリクストンの〈Hootananny〉は、キャパシティ400人くらいの大きなクラブ。新作のリリースパーティをやった時は満員になって、ステージ前にはモッシュピットができちゃって。普段は、新旧のアフロビートを聴ける『AFRO CLASH』、それから腕に自信のあるミュージシャンなら誰でも参加できる『High Times Jam』へ、よく遊びに行くよ」
一方でNK-OKにとってはホックニーの〈Colour Factory〉
の月曜日、『Orii Jam』が面白いという。
「ここは地域密着型のクラブで、近所の人たちが楽しみに来ているから、すごく雰囲気がいい。サウスロンドンには友達も多いから、プレーしに行ったんだけど、すごく盛り上がってね。ビートトラックをかけて、その上にいろいろなミュージシャンが即興で演奏していく。キッズみたいなあどけない表情だけどギターソロを聴かせる男の子、それから激しいアルトサックスのブロウをかますBボーイとか出てきて。聞いてみたら、2人とも18歳とかで(笑)。今後が楽しみだと思ったよ」
いまだ20代であるブルー・ラブ・ビーツのその下の世代も躍動するロンドンは間違いなくこれからのジャズを引っ張る中心になる。