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音楽とデザインと愛が溢れている老舗のジャズバー、赤坂〈VOLONTAIRE〉。平野レミとリスニングバーへ

なぜ人は、リスニングバーに行くのか。旨い酒と洗練されたその選曲は、愛聴盤を新鮮に響かせ、新しく出会った一枚も名盤のように聴かせてくれる。店を信頼するゲストと店主が語る、音楽と酒の話。

Photo: Kenya Abe / Text: Chisa Nishinoiri

老舗のジャズバーには
音楽とデザインと愛が溢れている

ジャズバー〈ボロンテール〉は、かつて原宿の明治通り沿いにあった。区画整理により現在の場所に移転したのは2011年のこと。オーナーは、ビリー・ホリデイが大好きな坂之上京子さん。

カウンターの奥には貴重なLPレコードが整理され、ジャズプレーヤーたちの写真や肖像画が壁を彩る。中でも目を引くのが、ジャズと映画をこよなく愛したイラストレーター、故・和田誠さんの作品の数々。この日店を訪れた料理愛好家、平野レミさんの最愛の夫である。

「うわ〜、懐かしい!うわ〜、嬉しい!和田さんの作品がいっぱいあるのね。見て見て、私も今日、和田さんが描いたレコードのニット着てきたの。壁にある、和田さんが描いたレコードの絵とお揃いね」

レミさんの粋な計らいに、京子さんも大感激。「和田さんは原宿時代からの大常連さん。お店の20周年には私が大好きな曲『Smile』の楽譜を描いてくださって。色鉛筆の色彩が優しくて、とても素敵なの。和田さんの絵には、ご本人の温かさが感じられて、いつ見てもジーンとしちゃう」。来店早々、息つく間もなく和田さんトークで盛り上がる2人。

「私もデートで原宿のお店に何度か連れていってもらったことがあって。そういえば、近くの〈PINK HOUSE〉のブティックで洋服を買ってもらったこともあって」と、レミさんからは初々しい新婚時代の秘話まで。

店がオープンしたのは1977年。当時、神宮前交差点には原宿セントラルアパートが立ち、そこはデザイナー、コピーライター、イラストレーターやカメラマンなど最先端のクリエイターたちが仕事場を構える、「若者文化の象徴」のような場所。

赤坂 ジャズバー〈ボロンテール〉

「『話の特集』の編集部もそこにあったので、和田さんもそのお仲間の一人。みんなジャズが大好きだし、LPのジャケットはデザインを学ぶ格好の教材。中でもリード・マイルスは憧れのデザイナー。

“このCool Struttinのタイポグラフィが斬新なんだ”とか“タイポと写真の使い方がカッコイイんだ”、“やっぱりジャケットがいいと中身も裏切らないね”なんて、レコードを聴きながら熱く語り合っていました。
そうそう、和田さんはシナトラが大好きで、頭の後ろで手を組んで、“コレ”かけて、と『Nice 'n' Easy』をよくリクエストしてくださったわ」と、京子さんが当時の様子を懐かしむ。

「家では仕事の話は一切しなかったけど、仕事の後に大好きなシナトラを聴きながらここで一杯飲んで、いい気分になって帰ってきていたのね」と、愛しそうに微笑むレミさん。

しかし帰宅後、深夜に和田家の電話がたびたび鳴ることがあったそう。

「ジャズ好き、映画好きの常連さんが集まると、深夜まで話が盛り上がるんだけど、酔いも回ってセリフや名前が全然出てこないの。すると決まって“和田誠さんに聞いてみよう!”って。和田さんは本当に知識が豊富で、優しい生き字引のような方でしたから」と、京子さんからの40年越しの種明かしが。
「その電話だったのね!深夜の電話には和田さん喜んで出ていたわ」

2人で選んだ4枚

『Nice 'n' Easy』Frank Sinatra
『Astaire Time』Fred Astaire
『MonK』Thelonious Monk Quintet
『Bix & Tram − 1928』Bix Beiderbecke、Frankie Trumbauer