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湯上りに音楽を楽しめる宿から、蕎麦屋の2階のお店まで。日本全国リスニングバー&カフェ4選

何度も通いたくなる店は、選曲や音響の良さはもちろん、そこでしか得られない体験が待っている。半世紀続く老舗から、これからが楽しみなニューオープンまで。今日も音楽を響かせる。

photo: Masanori Kaneshita, Hiroshi Kawashima, Jun Nakagawa / text: Chisa Nishinoiri, Wataru Sato, Ryota Mukai, BRUTUS

rock cafe PETERPAN(宮城/仙台)

シティポップラバーよ、
仙台を目指せ!

1972年創業の〈rock cafe PETERPAN〉。数々のミュージシャンと交流を持ち、生き字引的存在とも言える東北の名店だ。実は、79年から96年まで17年間ミニコミ誌を発行しており、今も店で読むことができる。

「新譜レビューとインタビューが中心で、デザインも含めてすべて一人で作ってたんです。もともと親交があった大滝詠一さん、細野晴臣さん、山下達郎さん、矢野顕子さん……たくさんいるので数え切れませんが(笑)。時には大貫妙子さんをお店に招いて、お客さんとの交歓会形式のインタビューもしましたね」と語るのは店主の長崎英樹さん。

親交があった長崎さんだからこそ聞ける突っ込んだ質問から、影響を受けていた音楽、アルバム制作秘話など。今となっては巨匠となったミュージシャンたちの音楽的背景や若かりし頃の試行錯誤まで、当時の空気感が感じられる貴重な内容が満載だ。

宮城〈rock cafe PETERPAN〉店内

shelter people(神奈川/横浜)

小さな7インチ盤と
“ヨーロッパ”ジャズ。

「7インチ盤の片面に収録できるのは6分ほど。音楽が切れないよう、いつもコーヒーを淹れるタイミングを、慎重に見計らってます(笑)」と話すのは、〈シェルターピープル〉の店主、山田達也さん。店内に鳴るのは、1950年代から60年代の“ヨーロッパ”のジャズがほとんど。

トルコのレコード盤
右は、山田さんが最近掘っているトルコの盤など。フランスを中心にイタリア、イギリス、東西ドイツ、フィンランド、ソ連、ハンガリーなども。店内には500枚ほど置き3ヵ月に1度のペースで大きく入れ替える。

「もともとプレス数が少ないうえに、あまり注目されないジャンルなので再発されず、7インチでしか聴けない曲が多いんです。僕自身、ジャズといえばアメリカでした。10年ほど前にヨーロッパジャズの面白さに気がついたんです。フランスにはシャンソンのように古くから独自の音楽カルチャーがあり、スイングで踊るスタイルがあることがわかるし、スウェーデンは40年代からスタン・ゲッツをはじめアメリカ人とのセッションを経験していたからジャズのスタイルもアメリカン、とお国柄が出るのが面白い」

スピーカーは東ドイツのSchulz社製で長く聴いていられるように調整。欧州各国でローカライズされた音は、ジャズの広くて深い世界を教えてくれる。

神奈川〈shelter people〉店内

亀治(福島/福島)

蕎麦屋の2階にリスニングバーが。

大正創業の蕎麦屋〈大町 おかめや〉の裏、蕎麦打ち工房の階段を上がると今年オープンしたリスニングバー〈亀治〉が。オーナーは〈大町 おかめや〉4代目・佐藤和敬さん。
「もともと音楽のお店をやりたかった。2代目が当時の店の2階で仲間内でレコードバーをやっていて。それが念頭にあって、蕎麦屋のバックヤードに作ろうと思ったんです」

亀治〉をプロデュースしたのは、渋谷〈INC COCKTAILS〉などの立ち上げを行った藤田祐介さん。「蕎麦屋とリスニングバーの融合」をコンセプトにしているという。
「日本独自の文化同士がうまく交わるように意識しています。メニューもわさびを漬け込んだジンなど、蕎麦屋らしさにもこだわってますね」

Wynonie Harris「Quiet Whiskey」, Spike Jones「Cocktails For Two」, Julia Lee「Last Call」レコード盤
右から「Quiet Whiskey」「Cocktails For Two」「Last Call」(ラストオーダーの意)。どれもお酒にまつわるタイトルがついたアメリカのジャズ7インチ盤。世界的に見てもかなり稀少なコレクションで、レコードのセレクトを務めるMarcyさんの渾身の3枚。

もちろん選曲も音響も抜かりない。
「音楽はダウンビートを基調とした50s〜60sのジャズ、ブルースが中心。セレクトは、DJ、レコードコレクターとして国内外で著名な、レコード店〈Little Bird〉店主・Marcyさんにお願いしています。スピーカーは〈JBL4311B〉、アンプは〈DYNACO MARK3〉で共にヴィンテージ。レコードと同時代の機材なので、限りなく当時に近い音に身を浸せる。最高の音環境でお酒と音楽を楽しんでもらいたいんです」

旅館 大村屋(佐賀/嬉野)

温泉に合う音楽ってなんですか?

「湯上がりにはまったりとした高揚感ある音楽が最高。VIDEOTAPEMUSICさんが春に嬉野で滞在制作した楽曲なんて、まさにぴったりです」。そう答えるのは、佐賀・嬉野温泉〈大村屋〉の15代目、北川健太さん。『スリッパ温泉卓球大会』など、老舗とは思えない企画を連発してきた張本人だ。

2017年に「湯上りを音楽と本で楽しむ宿」としてリニューアル。オールドJBLで、約3000枚のレコードが楽しめるラウンジ・ライブラリーを誂えた。コレクションには、自他共にフリークと認めるビートルズのレコードや親交のあるピーター・バラカンさん選曲の大村屋オリジナルプレイリストなど、温泉に浸かって音楽三昧、大人のアソビここに極まれり。

大村屋が選ぶ、湯上がりに聴きたい4曲
「嬉野チャチャチャ」VIDEOTAPEMUSIC
「温泉」くるり
「Rock Your Baby」エマーソン北村
「Dark End of the Street」Ry Cooder