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音の良い店に物語あり。〈ダウンビート〉、〈バー スライト〉2人の若き店主が店作りを語る

何度も通いたくなる店は、選曲や音響の良さはもちろん、そこでしか得られない体験が待っている。半世紀続く老舗から、これからが楽しみなニューオープンまで。今日も音楽を響かせる。

photo: Masanori Kaneshita, Hiroshi Kawashima, Jun Nakagawa / text: Chisa Nishinoiri, Ryota Mukai, BRUTUS

音の良い空間のために
歴史をつなぐ人、新しく作る人

店を継承した〈ダウンビート〉吉久修平さんと、ゼロから立ち上げた〈バー スライト〉笹木皓太さん。2人の若き店主が店作りを語る。互いの店での交換選曲も要チェック。

笹木皓太

店をオープンしたばかりの頃、吉久さんが一人でふらりとやってきて、カウンターで酒も飲まずに腕を組んでじっと音に耳を傾けている姿が忘れられません。只者じゃない感がハンパなかったです。

吉久修平

そう?僕お酒が一滴も飲めないんで(笑)。音に聴き入っちゃうのはジャズ喫茶のクセかな。機材はなに使ってるんだっけ?

笹木

スピーカーはTaguchiです。DJをしてた頃、月イチで回してた場所のスピーカーに惚れて、その店のサウンドデザイナーさんを紹介してもらい同じものを注文したんです。

吉久

どこに惚れたの?

笹木

まず音の立ち上がりが良い。レコードに入っている音が素直に出るのが嬉しいし、臨場感がありながら聴き疲れしないのも良いんです。

吉久

このシステムだと最新のUKジャズが聴きたいね。現在の技術、機材で録音されたレコードだから現行のスピーカーだと音がよく鳴る。うちのスピーカーは古いものだから鳴り方が全然違うと思う。逆にこのシステムで古いレコードも聴き比べたいね。キャノンボールとエヴァンス共演の『Know What I Mean?』とか。

笹木

あ〜、いいですね!アルトサックスの、あの粘っこい感じ。

吉久

キレイすぎない音の雑味、生々しさありきな感じが良いよね。

笹木

僕は憧れの〈ダウンビート〉で選曲できて感動でした。レコードリスト集の厚さが尋常じゃなかったので、4枚厳選は苦行でしたが。

吉久

歴史だけはあるのでね。その中から川崎燎を選ぶなんて渋すぎる。

笹木

音がロックバンドの作りに似てるんですよね。だからこのド迫力のスピーカーで聴くなら、やっぱりライブ盤かな、と。まさにライブハウスのギターの音がする。音響もそのまま引き継いだんですか?

吉久

ALTECのスピーカーは創業当時からあるもの。カウンターにJBLのスピーカーを追加して、DJ的な動きもできるようプレーヤーをTechnicsに入れ替えました。

笹木

店を引き継ぐきっかけは何だったんですか?

吉久

まぁ、僕の場合はノリで。

笹木

いやいや、ノリでできることじゃないでしょ!

吉久

もともと学生時代からの常連だったんですよ。前の店主が、店を辞めようと思ってるけど、やる?と声をかけてくれて。後任が見つからなかったら店を閉めると言うので、だったら自分が引き継ごうかな、と。

笹木

プレッシャーはありました?

吉久

一筋縄ではいかない客が集まる店だと知っていたので、ワクワクしかなかったですね。ただ一つ、創業時から変わらないジャズを大音量でかけることだけを大切にしようと。

笹木

常連さんからの反響とかは?

吉久

ジャズ好きの常連から、喫茶使いでたまに来る近所のお客さんまでいろんな人が来るし、コミュニケーションを取ることは少ないんです。ただある日、一人の老紳士が帰り際に「50年前の今日、初めてこの店に来たんだよ」と声をかけてくれて。店を存続させることの大きな意味を感じて、シビれましたね。

笹木

そういうの憧れます。僕は20代の頃から人が集まるサロンのような場所を作りたかったんです。普通の町の酒場なんだけど、音はめっちゃいい、みたいな。ジャズを通して自分も店もお客さんも一緒に育って、文化を醸造させたいんですよね。50年来のお客さんがいて、ブレない指針があるなんて、羨ましいです。

吉久

逆に先入観なくお客さんに受け入れてもらえるのも羨ましいけどね。店の根幹にあるジャズというスタンスを受け継いだことはデカいけど、やっぱり自分がやる意義も模索したい。名盤もかけますが、現在進行形で進化し続けているジャズも積極的に選盤しています。常連さんが小窓を覗いて、かかってる盤のジャケ写を確認しに来たら、よし!って感じ。

笹木

今の音楽を、いい音で、リアルタイムに聴くって大切ですよね。

吉久

だから笹木くんがジャズの新譜をレコードでちゃんと買ってるところがすごい。フィジカルに買い続けてるって、とても尊い行為だよ。

笹木

もはや執念ですね(笑)。

お互いの店で一日選曲を交代しました。

神奈川〈down beat〉店内
個室になった〈ダウンビート〉のDJブースでレコードをかける笹木さん。歴史あるジャズ喫茶の聖域に感動しつつ、ライブ盤を中心に選曲。

Bar SLIGHIT店主がこの店で選んだ4枚
『Lee-Way』Lee Morgan
『Live At The Lighthouse』Lee Morgan
『Planetary Prince』Cameron Graves
『Live』Ryo Kawasaki

東京〈Bar SLIGHT〉店内
最新のUKジャズもラインナップする〈バー スライト〉の棚に興奮気味の吉久さん。自身の店との音の違いを楽しめる4枚をチョイス。

down beat店主がこの店で選んだ4枚
『Bring Backs』Alfa Mist
『Your Queen Is A Reptile』Sons Of Kemet
『Know What I Mean?』Cannonball Adderley With Bill Evans
『Money Jungle』Duke Ellington