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人生に必要な、良い音、良い酒、良い物語に出会える渋谷〈INC COCKTAILS〉。アーティスト・長場雄とリスニングバーへ

なぜ人は、リスニングバーに行くのか。旨い酒と洗練されたその選曲は、愛聴盤を新鮮に響かせ、新しく出会った一枚も名盤のように聴かせてくれる。店を信頼するゲストと店主が語る、音楽と酒の話。

Photo: Kenya Abe / Text: Chisa Nishinoiri

人生に必要なのは、
良い音、良い酒、良い物語

「事務所の引っ越しをきっかけに音環境を見直していて。今使っている天井からぶら下げる〈Taguchi〉のスピーカーは音に包まれる感じが良くて、よく仕事がはかどるんですが、良い機材の店でいろいろ聴き比べたいと思っていたんです」

アーティストの長場雄さんが訪れたのは〈インク カクテルズ〉。クールなカウンター正面に鈍く輝く銀色の箱は〈ALTEC〉612A、通称「銀箱」。マネージャーの森岡賢二さんが苦楽を共にする相棒だ。2008年に神戸にバーを開業して以来店舗数を増やし、この店が4軒目。

「このスピーカーは1軒目の形見のような存在。自分の店には欠かせない相棒で、渋谷で店を始めるにあたり一緒に上京してきました」森岡さんいわく、「音色は水の中にいるみたいな音。当時の一流プレーヤーたちがレコードに収めた当時の音を、限りなく同じ状況で楽しみたいんです」。

渋谷〈インク カクテルズ〉店内

選曲はジャズが中心だが、新旧は問わず。〈ALTEC〉の魅力を最大限感じてほしいからと、必ず生楽器の音が入る盤をかけているという。

「ちなみに彼らのセッションを数多く録音し、ジャズ史における陰の伝説的人物といわれている録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダーという人がいて……」と、ゆっくり針を落としながら盤にまつわる逸話とともに曲を聴かせてくれる森岡さん。

「そういう話、しびれますよね!音の世界が広がります。良い音楽と良い物語があると、酒も旨い。これこそバーの醍醐味。最近はサブスクなどで音を消費しすぎているなと思っていたけど、やっぱりこういう時間が、大人には必要ですね」

2人で選んだ4枚

『Midnight Blue』Kenny Burrell
『Cookin'』Miles Davis
『A Night At The Village Vanguard』Sonny Rollins
『Ballads』John Coltrane Quartet