変化の時代に
常に問いを持ち続けること
新しい時代の書道表現を模索するアーティストの新城大地郎さんもまた、大拙氏が広く世に伝えた禅の思想に刺激を受けた一人だ。
「祖父が禅僧で、幼い頃から禅の言葉や禅画は身近でした。でも能動的に学び始めたのは2017年の初個展を開いた頃。”なぜ書くのか””何のために書くのか”を突き詰めるうえで、自らのルーツを知りたいと手に取ったのが大拙氏の『禅』です。感覚的だった部分がわかりやすく言語化され、自分を深く知り、見つめる糸口をもらえました」
以降の表現活動の中でも、時折大拙氏の言葉に立ち戻り、自分を見つめ直すという新城さん。
「大拙氏が広めた禅の言葉の一つが”不立文字”。悟りは、文字で記された説法にむやみに従うことではなく、自分なりの”直観”と”体験”を経てこそ会得できるという意です。言葉を鵜呑みにせず、それを契機に自分なりの問答を行うことで本質に近づける。その考え方は、言葉を表現の媒介にする僕の大切な指針になっていますね」
展覧会では、大拙氏の書画や、彼に刺激を受けた国内外の表現者たちの作品が展示される。
「一度疑って、問うてみる姿勢は、情報に溢れ、流されがちな今の時代を生きるうえでも大切。禅を根底に受け継ぐ作品群に触れることで、自分を見失わないためのヒントをもらえると思います」
鈴木大拙とは?
1870年生まれの仏教学者。禅に関する約100冊の著書のうち20冊程度を英語で執筆。禅を欧米に伝えた。その影響はジョン・ケージ、ナム・ジュン・パイクらにも及び、現代芸術の源泉の一端を担った。1966年没。