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レモンサワーを語らせろ!〈酒肆一村〉大野尚人 × 〈OPEN BOOK〉田中開

居酒屋や量販店、オーセンティックバーなど、レモンサワーの快進撃がすさまじい。今回は酒場のレモンサワーブームのきっかけとなった2つの店舗のオーナーに、その魅力をおおいに語ってもらった。

photo: Shin-ichi Yokoyama / text: Koji Okano

レモンサワーを語らせろ!

大野尚人(〈酒肆一村〉オーナー)×田中開(〈OPEN BOOK〉オーナー)

大野尚人

田中さんがレモンサワーに注目し始めたのは、いつですか?

田中開

2014年、大学生の頃です。ライターとしてレモンサワーのおいしい店をいくつか紹介したら、その記事のPVが格段に良くて。

大野

どんな店に行ったんですか?

田中

中目黒〈もつ焼きばん〉や小岩〈素揚げや〉などです。前者は1958年の開業で、焼酎+レモン+炭酸入りのドリンクを初めて「サワー」という名前でメニューに載せた店なのだそう。

大野

2013年創業の〈素揚げや〉には、僕も衝撃を受けました。この店では氷とレモンを入れる代わりに、冷凍したレモンを使います。今や提供する店も増えた“凍結系レモンサワー”の元祖とされています。

田中

中(お代わりのプレーンサワー)を注文できるのがいいんですよ。3杯目くらいで程よくレモンが溶けるから、つい杯が進んじゃう(笑)。

大野

2014年創業の〈晩酌屋 おじんじょ〉も興味深い店。自家製のリモンチェッロを使ったり、モヒートに似た外見のレモンサワーを出したり。味も見た目も今までの居酒屋になかったもので、ネオ大衆酒場ブームの始まりとされています。

田中

僕は大学卒業後、16年に〈OPEN BOOK〉を開業しました。いろんな人に気軽に立ち寄ってほしくて、キャッチーなお酒であるレモンサワーの専門店にしたんです。でも一方で、ジントニック専門店にしようかと悩んだ時期もありました。

大野

奇遇ですね。僕のレモンサワーは、新橋〈Land Bar Artisan〉のバーテンダー・伊藤大輔さんの、ライムではなくレモンを使うジントニックに影響を受けています。これが本当においしくて、ジンとトニックを用いた「名代レモンサワー」を考案、13年の〈酒亭 沿露目〉開業時に看板メニューに据えました。

田中

なるほど「名代レモンサワー」はジントニックでもあるんですね。ちなみに「名代ジントニック」の名前で出していたら、どうでしたか?

大野

今ほど反響はない、というか失敗していたかもしれません(笑)。

田中

レモンサワーという言葉が、特段キャッチーに響くんだと思います。僕も自店の賑わいを見て、そう思います。

入口のカクテル、レモンサワーの可能性

大野

戦後ずっとレモンサワーは居酒屋ドリンクの定番でした。加えて1984年の「タカラcanチューハイ〈レモン〉」発売以降、特に2010年前後からは多様な缶入り商品が販売され、市場が活気づきます。

田中

レモンサワー好きを公言したEXILEの影響で、女性や若者もレサワの魅力に気づき始めましたよね。

大野

私たちのような、レモンサワーに力を入れる店が歓迎されました。

田中

でもレモンサワーって、定義が曖昧ですよね。本来、サワーというのはシェイクカクテルの一種。炭酸で割った時に、“ハイボール”から略された“〇〇ハイ”の呼び名は納得できますが、なぜかレモンサワーは、その呼び名が定着しています。

大野

「レモンが入っていれば、レモンサワー」でいいと思うんですよ。

田中

賛成!実は僕も自由さがいいと思うんです。うちは鹿児島・奄美大島の黒糖焼酎も福島の日本酒も使いますが、メニュー名はレモンサワーです。決まりがないからこそ、各店が創意工夫を重ね、今のブームがあるともいえますね。

大野

僕は16年に、バーのような設(しつら)えの居酒屋〈酒肆一村〉を開業しました。昔からオーセンティックバーが大好きだったから。結局居酒屋を開いたけれど、バーをお手本にしたレモンサワーが手元にあった。これを〈酒肆一村〉で出せば、その一杯がきっかけでバー文化に興味を示す人が増えると思ったんです。

田中

僕も大野さんと考えが似ています。気軽にゴールデン街のバーカルチャーを楽しめる場所を作りたいという思いで、〈OPEN BOOK〉を開業したという経緯があるからです。

大野

21年開業の〈SG Group〉系列のカクテル居酒屋も「普段バーに慣れ親しんでいない人が、よりカクテルを身近に感じられるように」との思いでレモンサワーを提供していると聞きます。

田中

酒場のレサワが、バーの世界に飲み手を誘う一手になるんですね。“入口のカクテル”ともいえます。

大野

そしてレサワブームが続く限り、その扉は大きく開かれている。僕はより多くの人がバーの魅力に開眼できるように、これからもレモンサワーを提供し続けていきますよ。

日本レモンサワー史

1958:居酒屋〈もつ焼きばん〉第1号店が、東京・中目黒にオープン。レモンサワーの提供を開始する。

1980:東京・武蔵小山の飲料メーカー〈博水社〉が、レモンサワー用の割り材「ハイサワー レモン」を発売。

1984:宝酒造から、日本で初めての缶入りチューハイ「タカラcanチューハイ」が発売される。「タカラcanチューハイ〈レモン〉」も登場。家庭で手軽にレモンサワーが味わえるように。

2001:〈キリン〉がウォッカベースの缶入りチューハイ「キリン 氷結®」を発売。「キリン 氷結® シチリア産レモン」をラインナップ。

2005:〈サントリー〉がウォッカベースの缶チューハイ「-196℃」を発売。

2008:〈キリン〉がアルコール度数8%の「キリン 氷結®ストロング」を発売。

2009:〈サントリー〉がアルコール度数8%の「-196℃ ストロングゼロ」を発売。「-196℃ ストロングゼロ〈ダブルレモン〉」が人気を博した。チューハイ市場で“ストロング戦争”が勃発する。

2011:この頃ダンス&ボーカルグループのEXILEがバラエティ番組で「打ち上げで(スタッフ等含めて)レモンサワーを約2500杯飲んだ」と発言。半ば都市伝説化し、若者や女性がレモンサワーに関心を持つきっかけに。

2013:4月、“凍結系レモンサワー”の元祖とされる居酒屋〈素揚げや〉が東京・小岩に開業。
11月、門前仲町に居酒屋〈酒亭 沿露目〉が開業。ジンとトニックで仕上げる「名代レモンサワー」が話題になる(現在〈沿露目〉では、平日16時〜18時の提供)。

2014:7月、のちの“ネオ大衆酒場”ブームに大きな影響を与えた居酒屋〈晩酌屋 おじんじょ〉が、恵比寿でオープン。「レモンチェッロで酎」など、個性豊かな6種のレモンサワーが評判を呼ぶ。

2016:3月、東京・新宿のゴールデン街にレモンサワー専門店〈OPEN BOOK〉開業。
11月、門前仲町に〈酒亭 沿露目〉系列の居酒屋〈酒肆一村〉がオープン。「名代レモンサワー」のほか、「塩味レモンサワー」など5種のレモンサワーを提供する。

2019:10月、〈コカ・コーラ〉がアルコール飲料に初参入。「檸檬堂」ブランドで4種の缶入りチューハイを全国展開。2020年には約1億9000万本を売り上げ、異例のヒットを飛ばす。
同じく10月、〈サッポロビール〉が、「濃いめのレモンサワーの素」を発売。炭酸水で割るだけで居酒屋風のレモンサワーが楽しめると好評を博す。2020年には計画比5倍という爆発的な売り上げを記録した。

2020:1月、〈LDH JAPAN〉×〈宝酒造〉×〈ローソン〉がコラボした缶チューハイ「LEMON SOUR SQUAD from NAKAMEGURO」が販売開始。ローソンで過去1年間に発売されたチューハイ新商品の中で、最速で販売100万本を達成した。

2021:2月、バーテンダーの後閑信吾さんが率いる〈SG Group〉が、東京・渋谷でカクテル居酒屋〈ゑすじ郎〉を開業。18種のレモンサワーを提供する。
4月、〈OPEN BOOK〉がレモンサワー用のリキュール「リアルレモンサワー」を限定販売。

2023:5月に〈アサヒビール〉から、レモンスライス入りの缶チューハイ「未来のレモンサワー」が発売。

レモンサワーこそ、バーの入口である。“レサワ”が楽しめる、東京のオーセンティックバー5選