ファインミネラルの博物館が、レバノンにあった!

photo: MIM Museum / text: Momoko Ikeda / edit: Shogo Kawabata

鉱物博物館といえば、サイエンス的に貴重な標本が並ぶところが多い。ところが、標本の「美しさ」を重視して選び抜かれたファインミネラルを専門に展示する博物館が、なんと中東レバノンにあった。


本記事も掲載されている、BRUTUS特別編集「合本 珍奇鉱物」は、2023年12月5日発売です!

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MIM Museum Collection

ハイクオリティかつサイズ感もあるコレクション。サイズ表記にも注目!

フローライト
Fluorite

セルサイト
Cerussite

クォーツ
Quartz

フローライト
Fluorite

アンドラダイト
Andradite var. Demantoid

バライト
Barite

ダイヤモンド
Diamond

オパール
Opal

アパタイト
Apatite

レグランド石
Legrandite

サリム・エディ氏が手がける〈MIMミュージアム〉

以前から、鉱物好きの間で「とてつもなくハイクオリティな鉱物標本を集めた博物館がレバノンのベイルートにあるらしい」と、秘境の地を語るように話題に上っていたのがサリム・エディ氏が手がける〈MIMミュージアム〉だ。謎に満ちたこのミュージアムの実態を探るべく、サリム氏に話を聞いた。

「私は、20年以上もの歳月を鉱物収集に充ててきました。現在は金融機関にソフトウェアを提供する会社を運営していますが、もともとは化学エンジニアで、その時に地球上で物質がどのように形成されているかを学びました。この世界には約5000種類の鉱物が存在し、それらは極めて幾何学的な結晶で構成されているのです。数兆個もの原子が自然の力で完全に秩序立った配置になって存在しているという事実に、私は強く心を揺さぶられました」

以来、収入の90%を鉱物収集につぎ込み、満を持して2013年に故郷のベイルートにMIMをオープン。現在は2000点以上のコレクター垂涎の鉱物たちが展示されている。

「地球上にある鉱物の中でも美しいものはごくわずかです。この博物館ではその標本の“美しさ”に特化したことが功を奏して、平均20%のリピーターもいます。鉱物には人々が慣れ親しんでいない“尋常ではない美しさ”があるのです」

ミュージアムは2フロアで構成され、1階のギフトショップを抜けて地下に行くと、数々の鉱物たちがカテゴリー分けされて展示されるメインスペースが広がる。美しい標本を見つけるのがとても難しい放射性鉱物や激しい争奪戦の末にオークションで勝ち取った貴重な鉱物のセクションなども並ぶ。

「最初に素晴らしい形状のアクアマリンを手に入れましたが、その後、約53㎏のものが見つかったので、それも購入しました。自分が世界で最も美しい標本を持っていると思うたびに、その考えは覆され、コレクションには終わりがありません(笑)」

そのほかにも、ブラジルから運ばれた4トンの水晶を地下に下ろすことができず、代わりに地上階のギフトショップ前へと軌道修正したり、パリで購入したリンやウランを含む重さ4㎏ほどの大きな鉱物をベイルートに運ぶ際には、空港のX線検査機が狂いだして警備員に問いただされたりしたことも。

この鉱物は偶然にも警備員の出身地と同じフランスのブルゴーニュ地方のオータンで採れたものだったため、「オータンにこんな鉱物があるなんて知らなかった!」と解放してもらい、神業のように難を逃れたそうだが、このように鉱物をめぐるサリム氏の逸話は尽きない。同様に、地元レバノンへの思いも強い。

「レバノンには博物館が少なく、特にここはミネラルというニッチな分野です。非常に不安定な政治状況で、平和を見出せない地域でもあります。でも、たとえ世界中が混沌としている中にあっても、何兆何千億もの原子でできている鉱物たちは、完璧な秩序を見せてくれます。自然界に見られる創造性を、人間は到底持ち得ません。このMIMが私自身の国に平和を導き、美しさを称賛する場所になればと思っています」