Eat

Eat

食べる

「こだわることの大切さを教えてくれた」俳優・磯村勇斗、僕をつくったパフェ

話題作への出演が相次ぎ、役者として進境著しい磯村勇斗さんが、パフェを作っていた時代があるのをご存じですか。とある一日、芝居を離れ、かつての師匠の店を訪れました。

初出:BRUTUS No.1009「本当においしいアイスクリーム」(2024年6月3日発売)

photo: Tetsuo Kashiwada / styling: Satoshi Kamei / hair: Tomokatsu Sato / text: Yuko Saito

「あのおいしさは、いまでも忘れられないですね。あんなに味わって食べたパフェは生まれて初めて。いまだに超えるものには出会っていません。あぁ、話しているだけで食べたくなってきた」

一昨年、映画『月』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど、めきめきと評価を高めている俳優の磯村勇斗さん。彼が自分史上最高のアイスメニューだと言うのが、東京・町田にあった〈カフェ中野屋〉の《中野屋わらびもちと白玉団子のパフェ》だ。

〈カフェ中野屋〉といえば、店長だった森郁磨さんが、フルーツをグラスの側面に張り付けたり、表面を平らにしたりと、常識破りのパフェを次々考案し、旋風を巻き起こした店。実は磯村さん、大学時代にそこでスタッフとしてパフェを作っていた。この日は念願叶って、現在森さんが営む東京・上野毛の〈ラトリエ ア マ ファソン〉へ。

店の前で迎える黒ずくめのかつての師匠を見つけるや、「いやぁ、全然変わらないですね」と、12年のブランクもなんのその、一気に当時にワープ。

「もう覚えてないかと思ったよ」と、森さんに誘われて中に入ると、「これ、これ、このアンティークのグラス、当時もありました。店の雰囲気はまったく違うんですが……懐かしい」。そこに満を持して登場したのが、件(くだん)の《中野屋わらびもちと白玉団子のパフェ》の2024年バージョンだ。

上野毛〈ラトリエ ア マ ファソン〉の中野屋わらびもちと白玉団子のパフェ
磯村さんの思い出のパフェ。
《中野屋わらびもちと白玉団子のパフェ》2,420円。森さんが作った第1号のパフェでもある。2024年の復刻版にはジュレやガナッシュが!

もくもくと煙を漂わせながら、ドラマティックに登場した思い出のパフェを前に、「ちょっと待って。すごすぎる!まるで、ターミネーターの世界」と面食らい気味の磯村さん。が、森さんに「今は、食べる前の演出も大事。進化してるのよ。でも、グラスや合わせるパーツは違っても、黒ゴマアイス、ワラビ餅、白玉団子は変わってないよ」と言われて食べ進めると、「たしかに!懐かしい味だ。この黒ゴマアイスね、好きすぎて、自分でバニラアイスを買ってきて黒ゴマを混ぜ、黒蜜をかけて、家で真似してました」。

俳優・磯村勇斗
白玉をのせる作業から始めて1年ぐらいで作れるようになったという思い出のパフェと12年ぶりの再会。「これよ、これ。間違いないね!」

森さんいわく、パフェは見た目や味、食感だけでなく、温度の層が作れるのが、ケーキにはない魅力。主となるアイスは特に大切にしているそう。

「幸せだ~」と、待望のパフェとの再会に喜びもひとしおの磯村さんにもう一つ、森さんからサプライズが。12年ぶりに会う磯村さんのために、特別な一杯《ライチ&マンゴーのキャトルエピスのパフェ カルダモンの香り》を考案してくれたのだ。

上野毛〈ラトリエ ア マ ファソン〉のライチ&マンゴーのキャトルエピスのパフェ カルダモンの香り
森シェフが、今の磯村さんに贈るパフェ。
《ライチ&マンゴーのキャトルエピスのパフェ カルダモンの香り》4,950円。クランブルにアニス、ナツメグ、シナモン、一番下のソースにカルダモンで風味をつけ、最後に4種の香りが一つになる趣向。花はマンゴーの果肉、その下でライチのパルフェやミルキーベリーの発酵アイスなどが絡む。*果物の仕入れ状況によりない場合も。

森さんがサーブしながら、「発酵アイスを入れたり、よりアクロバティックに、芸事も多彩になっているけど……。最後に4種のエピス(スパイス)が一つになるパフェ、覚えてない?」と尋ねると、「あ、思い出した!でも、マンゴーはこんなお花みたいになっていなかったですよね?すごいわ、森さん、12年経ってパフェがアートになっている!味もパワーアップしてて、言葉にならないぐらいおいしい。味と香りで記憶が甦(よみがえ)るという体験、初めてしました」。

そして、気持ちよく、ぺろりと完食。

「森さんのパフェは当時から独創的で、とにかく繊細。一つ一つのパーツにものすごく手間暇かけていて、パフェはその集大成。だからこそ、僕も必死で覚えました。好きなことに徹底的にこだわるのが、森さんのかっこいいところ。料理、器、車から服のことまで、影響をたくさん受けました。だから、今日、パフェという軸は変えずに、相変わらずこだわりまくって、より自由に進化させている姿を見て、ほんとに励みになりました。続けるというエネルギーは役者にとっても必要ですから」

作品が続く忙しい日々の合間の貴重なひとときになったよう。「大切な思い出の味をいただいたので、初心を忘れずに、明日からもっと頑張ります!」

磯村勇斗と〈ラトリエ ア マ ファソン〉店長の森郁磨
「勇斗は仕事の覚えがとても速くて職場のムードメーカーでした」と森さん。

スキッパーニット37,400円(キャプテン サンシャイン TEL:03-6277-2193)、シルクスカーフ23,100円(ユーゲン/イデアス TEL:03-6869-4279)、リネンイージーパンツ68,200円(ヘリル/にしのや TEL:03-6434-0983)、その他スタイリスト私物