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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:森鷗外『最後の一句』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』」を読む

edit & text: Emi Fukushima

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森鷗外『最後の一句』

森鷗外『最後の一句』
森鷗外著。死罪になった父のため娘は奔走。『山椒大夫・高瀬舟 他四篇』収録。岩波文庫/627円。

しかるべき場面で繰り出されたパンチライン

タイトルに“最後”と入っていることから、連載の最終回にぴったりだと思い選んだ本作。舞台は江戸時代。商売のもつれから濡れ衣を着せられて死罪になった父を救うため、16歳の長女いちが自分の命を懸けて役人に直訴するのが筋書きです。

権力に物申したいモードの鷗外がプロパガンダ的にしたためた物語の感も否めませんが、グッときたのはまさに“最後の一句”。この直訴は大人の入れ知恵ではないか、本当に父の身代わりになってもいいか、との役人の厳しい問い詰めに、いちは終始毅然とした態度で返答し、最後に“お上の事には間違いはございますまいから”と言い放ち役人たちを驚かせます。

勝手な想像ですが、いちはこのパンチラインを事前に用意していて、言うタイミングを見計らっていたんだろうなと。僕も肝煎りのフレーズを用意して番組に臨むことがありますが、タイミングを間違えて盛大にスベったことも数知れず。その点いちは最高の場面で発し、効果的に役人たちの心を突き刺したところが圧巻でしたね。

ですが結局は、娘の覚悟ではなく慶事の恩赦によって父はあっけなく命拾いをします。最後は権力に抗(あらが)えないと感じさせられる無力感も、たまらなく好きでしたね。純文学は解釈に余白があるから面白いもの。今後も読み続けて、誰もが知っている純文学を僕なりの視点で論じられるよう精進したいです!

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