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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:河林満『渇水』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「小川洋子『博士の愛した数式』」を読む

edit & text: Emi Fukushima

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河林満『渇水』

河林満『渇水』
河林満著。市役所で停水の業務に携わる男と、幼い姉妹の交流。『渇水』所収。角川文庫/748円。

明かされないからこそ、生々しい

今年映画化されたというニュースを目にして手に取ったのが「渇水」。もとは1990年に刊行された短編小説です。主人公は、市役所の水道部に勤める30代の岩切。水道料金の支払いが滞っている家庭の水道栓を閉める「停水」に携わる彼は、停水執行が迫るとある家庭の幼い姉妹と出会います。

そこから物語が動いていくのですが、この作品、読み手が知りたいことが絶妙に書かれていないんです。岩切の、非情な仕事に葛藤しているであろう気持ちも、停水が決まった家庭の幼い姉妹たちに対する気持ちも、彼を置いて家を出た自分自身の妻と子に対する気持ちも。

すべてが淡々としていて、さらっとしか表現されない。その消化不良感がリアルで生々しく、読み手にいろんな想像をさせるんですよね。細かく描かれていた方が、ドラマティックだろうけれど、この“不足”にこそグッときます。

ちなみに作中共感したのが、岩切が各家庭と踏み込みすぎないコミュニケーションをするところ。なぜか芸人としての自分を重ね合わせてしまいました。個人事務所に籍を置く僕の場合、周囲の芸人たちとの関係も、どこか踏み込みすぎないよう気をつけてしまうんですよね。

厄介な付き合いがないという多少の利点はあれど、『M−1グランプリ』や『キングオブコント』で優勝した仲間を泣いて労える結びつきの強さを、やっぱり羨ましくも思います。

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