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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:牧野信一『ゼーロン』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「梶井基次郎『Kの昇天』」を読む。

edit&text: Emi Fukushima

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牧野信一『ゼーロン』

牧野信一『ゼーロン』
牧野信一著。小田原と古代ギリシャが重なり合う。『ゼーロン・淡雪』に収録。岩波文庫/品切れ。

紛れ込んだ“デッドボール”が混乱を呼ぶ

数ヵ月前にとあるロケで訪れたのが、引退した競走馬が集まる北海道の牧場。ヨギボーに横たわると話題の名馬・アドマイヤジャパンに会いに行ったんですが、ご機嫌斜めだったのか、もう飽きてしまったのか、この日は一向に横たわってくれず、ヨギボーを手に悲しい追いかけっこしたことが記憶に残っています。

そんな光景とも重なったのが今作。すっかり怠惰な馬になった愛馬ゼーロンとともに、主人公がある銅像を故郷の村へ届けに行く道中を、古代ギリシャや中世ヨーロッパの世界観と重ね合わせながら描いた物語です。感じたことは、「著者の牧野さん、楽しそう」の一言に尽きます。

しつこさすら感じるほど難解な言葉遣いの中に、これまたしつこく神話的な表現を混ぜ合わせる面倒くさい作業を繰り返していて、これはもう“好き”の境地に至っているなと思いましたね。

逆に僕が思うこの作品の楽しみ方は、ギリシャっぽい表現の中から超現代的な言葉を探すこと。例えば“この必死の一投のねらい違わず、ゼーロンの臀部に、目醒ましいデッドボールとなった”の文には、3,000年近い時を超えて、ゼーロンという古代ギリシャらしい単語と、デッドボールという19世紀発祥の野球用語が共存。

完全には世界観を振り切らないそのチグハグさがツッコミ待ちのようで大好きです。ぜひツッコミながら読んでみてください。

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