梶井基次郎『Kの昇天』
幻想的な月夜がもたらす、死に際のロマン
写実的な描写と感覚的な表現が調和した美しい文章が魅力の梶井基次郎の小説。中でも、「月光がその人の高い鼻を滑りました」の一文に心奪われたのが今作です。文中の語り手は「私」。
療養地として滞在していたN海岸で知り合い、不思議な交流をしていたK君が溺死したことを知り、彼が死に至った背景について自らの考えを手紙の形式でしたためています。
冒頭で触れた美しいフレーズが登場するのは、「私」が夜の海岸でK君と初めて出会った夜のことを振り返る場面。前を歩いていた彼が振り向いた瞬間の、月光によって少しずつ顔に光の当たる面積が広がる月夜の幻想的な情景が、スローモーションで浮かぶ。この作品の美しさを凝縮した一文だなと思います。
そして「私」は、K君の死は、月夜が生み出す自らの不思議な影に魅せられ、導かれたことに起因していると考察するのですが、その死に方もまた美しいですよね。
ちなみに僕の憧れの死に方は、クジラのように自然に還ること。先日、NHKの自然系ドキュメンタリー番組で、海底でクジラの死体にいろんな生き物が棲みつき、そこで新たな生態系が育まれている映像を観て、自然に還ってほかの生物に貢献するっていいなと。自分なら……、今牛肉や豚肉にあれだけお世話になっているので、死んだら野生動物に食べられるのが理にかなってるのかもしれません。