Visit

名和晃平、吉岡更紗、林ゆうき。京都を知るクリエイターが通う、自分の時間を過ごすためのベストスポット

古都の町が、人が、自然が、歴史が、もの作りへと向かう力を刺激する。京都を拠点にする、あるいはゆかりがある創作者たちに聞く、自分の時間を過ごすためのベストスポット。

本記事は、BRUTUS「京都の余白。」(2025年10月1日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Kiyoshi Nishioka, Shoko Hara / text: Masae Wako, Aya Honjo / edit: Mutsumi Hidaka

仕事と日常のあわいを、仲間たちのアートと過ごす

ékleipsis

店内のアートは左上が清川あさみ、その右が多和田有希、窓の右が井田幸昌、右の壁が岡本ビク。窓枠の奥は名和さんのドローイング。

スタジオでも家でもなく、その隙間にある余白のようなアートバー。いつ来てもゆっくりできる安心感と、好きなアートと過ごせる心地よい刺激があって、自分の部屋の延長のように通わせてもらっています」

今宵、彫刻家の名和晃平さんが足を運んだのは、祇園四条の雑居ビル。作家仲間たちや京都芸術大学の卒業生らの作品が飾られている半会員制バー〈イクリプシス〉だ。

「2000年代に、六本木にあったアートサロン〈トラウマリス〉のように、アーティストやキュレーターが集まって、自然に交流できる場所になったらいいんじゃないか。オーナーともそう話していて、店内に飾る作品のセレクトなどを手伝っているんです」

京都のスタジオと東京の自宅を3~4日ごとに行き来する多忙な日々。それでも「京都は時間がゆったり流れていて、商業主義によらず表現活動に向き合える文化が根づいている。古い建築や美術も残っていて、奥行きがあるから、この町を拠点に選ぶ若いアーティストが増えているのもわかる気がします」。

そんな名和さんが「勝手に描いた」と笑うのが、グルーガンを使った壁のドローイング。熱可塑性のグルーガンで描いた線は立体的に盛り上がり、絵とも彫刻とも言い切れない曖昧な存在として、店の景色を作っている。

「雑居ビルの隙間に現れた、どこにも所属していないストリートアートのイメージです。ぼんやり眺めていると、左端の小さな余白が、心にぽっかり開いた穴のように見えてくる。そういう穴を埋めてくれる時間を、このバーでは過ごせるような気がします」

歴史と自然に彩られた伏見で土地の清らかな力をもらう日々

ヤマダファーム

伏見桃山陵の近くで生まれ育ち、同じ伏見区の向島で制作に取り組む吉岡更紗さん。工房近く、観月橋から眺める月に季節の移ろいを感じ、かつて広大な巨椋池(おぐらいけ)があった向島で栽培される野菜や米にも心癒やされるそう。

「無農薬で生産を続けていらっしゃる〈ヤマダファーム〉さんの野菜は、格別においしく感じます。自然に根差したもの作りに相通じるものがあって先代から交流が続いており、染色に欠かせない蓼藍(たであい)の栽培でもお世話になっています」

清らかな流れに心身が浄化される由緒正しい洛北の神域

上賀茂神社

アニメのサウンドトラックが主役の劇伴音楽フェス『京伴祭』を開催する林ゆうきさんの、音楽家としての感性を養ったのが上賀茂神社。「実家近くにあり、子供の頃から親しんでいます。市内ながら豊かな自然を感じられ、中学の頃は夜に家を抜け出して境内で満天の星を眺めたりしました」。

特に好きなのは、神域をゆるやかに流れる御手洗川(みたらしがわ)。「足をつけて涼をとったり、初夏にはホタルが舞うのを見たりすることも。いつ訪れても心が洗われる大切な場所ですね」