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「韓国文化通信」Vol.10〈Fritz Coffee〉オーナー・Kim Byung Ki

今、最も“要注意”すべき韓国カルチャーを牽引するキーパーソンにインタビューし、その変化を定点観測していく本連載。第10回はコーヒー界のレジェンド、キム・ビョンギさん。

photo: Hoon Shin / text: Keiko Kamijo / coordination: Kim Jinon (TOKYO DABANSA)

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——学生時代はどんな若者でしたか?何をするのが好きでした?

キム・ビョンギ

スポーツ観戦が好きでしたね。特にヨーロッパのサッカーが好きだったんですが、当時の韓国ではすべての放送が観られるわけではなかった。

なので、ヨーロッパのリーグ戦を観るだけのために50日間旅行をしたりしていました。ちょうどセリエAで中田英寿が活躍していた頃で、夢中になって応援していましたね。スポーツ好きが高じて、大学卒業後は、半年間ではありますが、スポーツ雑誌の記者をしていたこともあります。

あとは映画を観るのも好きでした。映画館へ行ったり、映画祭を観に行ったりもしましたね。当時は、まだ日本映画が正式に輸入されていた時期ではなかったので、ビデオテープを借りてきて、北野武監督や岩井俊二監督の作品を好きでよく観ていましたね。映画祭で特集上映をされていた小津安二郎監督も好きでした。

——コーヒーに目覚めたきっかけは何だったのでしょうか?

キム

大学の卒業前にどんな職業に就くかを考えていた時、人権に関わるような仕事がしたいと思っていたんです。それでジャーナリズムに興味が出てきて、スポーツが好きだったこともあり雑誌社に入りました。

でも、残念ながら半年で雑誌は廃刊になってしまったんです。その時に働かないかと声をかけてくれたのが、当時好きで通っていた〈보헤미안(ボヘミアン)〉という喫茶店でした。そのお店は、フレンチローストの豆をドリップで淹(い)れる店で、初めて飲んだ時に衝撃を受けました。それで〈ボヘミアン〉で修業をさせてもらうことになったんです。

——なるほど。そこから独立されたのですね。

キム

当時〈ボヘミアン〉で一緒に働いていた先輩がスペシャルティコーヒーに興味があったので、2人で一緒にお店をやってみようっていう話になったんです。〈コーヒーリブレ〉という店を始めました。韓国で初めてスペシャルティコーヒーを始めた店で、今も人気があるお店です。それが2009年ですね。

——韓国の人たちの最初の反応はどうでしたか?すぐに受け入れられましたか?

キム

いやあ全然(笑)。お客さんも今まで飲んでいたコーヒーとは全然違ったらしく、これはコーヒーじゃない!って言われたこともありました。でも、根気強くやり続けたこともありますし、10年頃にはブルータスでもコーヒー特集が組まれたりしたこともあり、韓国国内でもスペシャルティコーヒーの認知度は徐々に上がってきました。

そして、14年に〈Fritz Coffee Company〉
を立ち上げました。今は国内に5店舗展開しています。

——〈Fritz Coffee〉は少しレトロ感のあるデザインやロゴにハングルを用いていたりと、パッケージやお店のデザインにもこだわりが感じられます。ブランディングしていくうえで大事にしていることは何ですか?

キム

外からの見え方も大事なのですが、内側をしっかり整えていくことがすごく重要だと思っています。なので、仲間であるスタッフの生活の安定を保つ体制作りが何よりも一番大事。

先ほど「人権」に興味があるという話をしましたが、ダイレクトトレードの豆を扱っているのもそういう理由からなんです。取引先も含めて、一緒に働く仲間が不安を感じないような店を作っていきたいと思っています。また、お店では味覚だけでなく、視覚でも楽しんでほしい。

私は昔ながらの感覚が大好きなので、「コリアン・ヴィンテージ」というデザインコンセプトを掲げてパッケージや店作りに生かしています。

今の韓国を定点観測するためにチェックすべき映画、場所、食

Movie

『別れる決心』
パク・チャヌク監督のメロドラマ風のサスペンス作品。パク・ヘイル扮する刑事が被害者の妻ソン・ソレの調査をしていく中で、お互いに惹かれていくというロマンス。大人の恋愛における感情の機微をユーモラスに描く。

「パク・チャヌク監督はどの作品も好き。ストーリーはもちろんですが、セットなどのデザインを見ていても面白いです」(キム

Place

『宗廟』
「お墓というとちょっと怖いイメージですが、建築も面白いし、静かですごく落ち着いた気持ちにもなれて好きな場所です」。(キム)

チョンミョ(宗廟)は、朝鮮王朝歴代の王と王妃の位牌と影幀が祀(まつ)られた霊廟。16世紀に建てられた建物がそのまま残されており、正殿は横の長さが101mと長く、世界最長の木造建築とされている。ソウル市鐘路区鐘路157|地図

Food

『mingles』
밍글스(ミングルス)はカンナムにある韓国を代表するファインダイニング。2024年の「アジアのベストレストラン50」では韓国で最上位の13位、ミシュランガイドのソウル版ではオープン2年後から星を取り続け、今も2ツ星をキープ。シェフのカン・ミングが腕を振るう伝統を重視したモダン韓国料理が堪能できる。ソウル市江南区島山大路67ギル19 2F|地図

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