——現在のお仕事のお店を始める前には何をしてきたのですか?
シン・ヨンイル
大学では体育学科でしたが、ファッションが好きで勉強していて。卒業後に最初に就職をしたのは、アパレル会社の広告部門でした。在学中にふとしたきっかけがあって料理番組に出たことがあるんです。料理研究家の人たちとたくさん知り合い、その方たちの勧めもあり料理の世界に来ました。
——料理はもともとお好きだったのですか?
シン
そうですね。小さい頃から友人の集まりで料理をしたり、お菓子を焼いていったりしていました。母がアメリカ旅行に行った時に、子供たちにお土産を買ってきてくれたんですが、兄弟のお土産は洋服や玩具なのに僕だけは料理の本だったんです(笑)。
——ファッションと料理。お店のデザインを見るとその2つが融合している気がします。ファッションはなぜ好きになったのですか?
シン
大学が体育学科で運動をしていたので、腕や脚が太くてフィットする服がなかった。当時(90年代)たまたま〈エンポリオ アルマーニ〉を着たらサイズが合ってカッコよかった。自分が着る服を作りたいと思って通い始めました。
——なるほど。卒業後はファッションの会社にいらして、その後お菓子の世界にはどのように?
シン
料理を学びたいとずっと思っていたのですが、大学在学中はなかなかタイミングが合わなくて学べなかったんです。卒業後、韓国伝統の餅菓子を学ぼうと考えた時に、料理学校や教室で学ぶ場合はこちらがお金を払って学ぶけど、餅菓子店で働けばお金を稼ぎながら学べるじゃないかと思ったんです。
——賢いですね(笑)、働く場所はどうやって探したんですか?
シン
それがなかなか大変でした。狎鴎亭(アックジョン)にはレストランが多いので、張り紙でもしていないか(当時はまだインターネットが発達していなかった)と見に行きましたが、その時には見つけられなかった。寒いし帰ろうと思ってバス停でバスを待っていたら、隣に座った人が餅を食べていたんですね。そうか、一つくらい買って帰ろうと思い立ち、入った店に求人の張り紙があったんです。そして、翌日から働くことになりました。
店で働き始めて、少し残念だなと思ったのは、ケーキやパンは常に新商品が出るのですが、餅菓子は新作が出てこないことでした。しばらくして、商品開発をさせてもらえることになり、様々な菓子をリサーチしました。それまで食べ物や食文化について、きちんと学んだことがなかったことを痛感し、デザートについて学ぼうと決意しました。世界で一番デザートを学ぶにふさわしい場所は?と考えた時に、フランスが浮かびました。そして、言葉も全然できなかったけど、フランスに留学したんです。3年いましたね。
——すごい決断力ですね。それで韓国の伝統を受け継ぎながらも、新しい伝統菓子が生まれたんですね。店を始める際のコンセプトやイメージはどのように考えていったのでしょうか?
シン
フランスから帰国して、2010年に店を始めるまで10年かかったのですが、その間は料理の仕事をしながらずっと頭の中で自分が作りたい店のイメージを膨らませていました。写真を撮るのが好きなので、自分のイメージを写真に撮り、絵を描くようにスケッチブックに貼っていった。そのイメージ作りは今でも続けています。
——今後の展開は考えていますか?
シン
古いスタイルの餅菓子を新しくしたいと思ってメニューを作り続けていましたが、最近は逆にクラシックに回帰したいと考えています。伝統的な餅菓子をもう一度見直してみようかと。

今の韓国を定点観測するためにチェックすべき本、音楽
Book

1938年生まれの写真家、황규태(ファン・ギュテ)による写真集。韓国アバンギャルド写真の先駆者として地位を築いた。代表作に、写真を一部切り抜いて拡大した「blow up」シリーズがある。「昨年出版された彼の初期の活動を知ることができる写真集。産業化する前の韓国の美しい風景と人々が写し出されていて興味深いです」
Book

アーティストであり実業家、韓国のアートシーンで重要な位置を占めるアートコレクターでもある김창일(キム・チャンイル)による写真集。CI KIMは彼のアーティスト名義である。「この写真集は雨の日に車の窓を通して見た風景を撮った写真集です。ワイパーの動きの隙間を狙って撮った写真で、何度も見返しています」
Music

ニュージーンズの曲。80~90年代のヒップホップとエレクトロが混ざったような心地よいグルーヴを持つ。どこか懐かしさを感じさせながらまったく新しいサウンド。「最近のK−POPの曲は複雑すぎて、最初に聴いた印象でいいなと思える曲が少ない。でも、ニュージーンズの曲はどれも瞬間的に体が反応して“いい!”って思えるんです」