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飲食店に猫がいたっていい。酒場を盛り上げる看板猫のトム

猫は人ではなく、場所につくという。「看板猫」という言葉もあるように、猫はただそこにいるだけで、その場に新しい“何か”を運んできてくれる不思議な存在だ。猫が幸せを運んだ、とある居酒屋の物語。

photo: Kasane Nogawa

英断を下した店主の心意気

「飲食店に猫はご法度。それは重々承知だったけど、それで客が離れるなら店を畳もうと思ってました」。東京都世田谷区、飲食店が軒を連ねる駒沢大学駅の一角で居酒屋〈SUIREN〉を営む店主は、きっぱりとこう言った。今や看板猫として人気のトムは6歳。毎日店主と一緒にバイクで店に出勤し、仕込みの様子を少し離れた場所で静かに見守っている。

「深夜、バイクで帰宅途中に、道で倒れている仔猫を見つけたんです。車に轢(ひ)かれたんだなと思って、せめて供養してやろうと抱き上げたら、まだ息があって。救急病院に駆け込んだのですが、長くは生きられないだろうと。自分が見つけたからには最後まで面倒を見ようと思って。ペット不可の部屋だったのですが、当時の大家さんが事情を聞いて、特別に猫の飼育を許可してくれました」

東京〈SUIREN〉店主と看板猫のトム
仕込み中、トムと遊ぶのが最大の息抜き。

瀕死から復活した奇跡の猫。酒場を盛り上げる立役者に

なんとか命をつないだが、体は強くない。いつ何があってもいいように同伴出勤することにした。

「最初はクレームもあったし、客数はグッと減りました。でも命には代えられないじゃない。自分は飲食以外の仕事もやっていけるんだから、できるところまでやってみようって」

その心意気に賛同する人が店を訪れるようになり、今や常連の多くが“トム推し”。病気の治療が必要なときは医療費をカンパするなど、サポートを続けてくれている。

「店をやっている割に自分は結構無愛想なんです。でもトムがいてくれるおかげで会話が弾んだり、お客さん同士の輪も広がっていくんです」

閉店覚悟の決意で始めた猫との生活に思わぬ幸せを運んでくれた。
「最初はどうなることかと思ったけど自然と猫好きが集まる店になって、以前より店が明るく、楽しくなった気がします。お前のおかげだね、本当にありがとうな、トム!」

東京〈SUIREN〉看板猫のトム
猫好きのお客が多いとはいえ、料理に毛が入らないよう、毎日丁寧にブラッシングをしている。小柄で華奢だけれど、男の子です!