最終的には「思い込む」しかない?
大倉孝二
今度の『消失』。僕がやった役を演じるって嫌じゃなかったですか?
藤井隆
全然。もちろん、すでに完成されている作品を別のメンバーでやるのは大変そうと思いましたけど、演出の河原雅彦さんも「楽しくやりましょう」と言ってくださったので、身を任せることにしました。
大倉
初演は20年前⁉ほとんど何も覚えていない。再演のときは体を少し痛めていたので、余計に悲痛な雰囲気を醸し出していたかもしれないです(笑)。
藤井
大倉さんとはNODA・MAPの『エッグ』(2012年・15年)と『贋作 桜の森の満開の下』(18年)でご一緒させていただいたんですよね。
大倉
『エッグ』は再演もあり、3回共演しましたけど、なぜかいつも楽屋が一緒で。
藤井
大倉さんは本当に優しくて、楽屋に畳やテーブル、レコードプレーヤーを持ってきてくださって、コーヒーをドリップで淹(い)れてくださったり、本当に快適でした。
大倉
僕が畳を入れたんでしたっけ?
藤井
そうですよ!僕は甘えさせてくれる人には骨の髄まで甘えちゃうタイプ。昼公演と夜公演の間、お腹いっぱいになって必ず寝てしまい時間になると起こしてくださった。
大倉
藤井さんはしゃべりながら5秒で寝ちゃうんです。そしてイノブタみたいないびきをかく(笑)。それが面白くて、藤井さんのいびきが始まるとほかの役者さんを楽屋に呼んで聞かせてあげたりしていました。
藤井
秋山菜津子さんからはイノブタのトンちゃんといまだに呼ばれてます(笑)。
大倉
藤井さんと秋山さんは本当に明るくて、音楽に合わせて踊りだしたり。どうでもいい話でみんなでずっとゲラゲラ笑ってました。
藤井
パリ公演にも行きましたね。公演数の多い大きな興行で、舞台上ではきっかけを間違えると大事故になりかねない、互いに命綱を託し合うようなところもあったんですよね。体力も神経もすり減らしながら舞台に立ち続けるなか、本当に助けていただいたなと思います。
大倉
藤井さんは野田(秀樹)さんに限らず、いろんな演出家から声がかかって、本当にすごいですよね。
藤井
ありがたいです。セリフの正確さよりも間を外さないことの方が重要視される吉本新喜劇で育てられて。でも、外の舞台ではセリフを一言一句台本通りに言わなければいけません。どうやったらいいのかわからなくなったときに秋山さんが「思い込むしかない」と教えてくださったんです。「(自分は)犬です」とか「鬼になって人を殺します」とか、それはいつも使ってます。
大倉
思い込むって、秋山さんらしいですね(笑)。
藤井
僕は〈ジョンソン&ジャクソン〉(大倉とブルー&スカイとのユニット)の舞台で大倉さんが生き生きとされている姿を見て感動して、自分もやりたいことを意識的にやっていくべきだなと、少し仕事の仕方が変わったんです。
大倉
シリアスな役が続いた時期があって、くだらないことをできないのであれば、自分でやった方がいいかなと始めたんですよね。続けるのは大変ですけど、藤井さんのような、「面白い」と言ってくれると嬉しい人が面白がってくださると、やる気になります。僕も藤井さんくらいエネルギッシュに動けたらいいなと思うんですけど。
藤井
それは物理的な問題です。身長187㎝もあるとやっぱりエンジンが……。
大倉
体はアメ車なのに心臓は日本車(サイズ)だから大変と医者に言われたことがあるんです。
藤井
だからケアが必要。それなのに武骨な男というか、必要としてないかのように振る舞うでしょう?ストレスフルなことは皆平等にあると思いますけど、僕は「はあ?」と異を唱えてその場で解決するので、あまりストレスに感じないんです。でも、大倉さんは相手の立場を考えてグッとこらえてしまうから。弱音も吐かへんし。ちゃんと吐いてもらわないと困ります!
大倉
いや、僕、藤井さんには吐いてますから(笑)。