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「恋」だけを詠み続けた。くどうれいんと染野太朗による、『Numéro TOKYO』の短期連載が書籍化

作家のくどうれいんさんと歌人の染野太朗さんによる、雑誌『Numéro TOKYO』の連載「恋」。その書籍化にあたり、恋と短歌について、2人に話を聞いた。

photo: Shu Yamamoto / hair & make: Mitsumi Uesugi (Rain Kudo) / text: BRUTUS

短歌の中では、寂しさが虹になることもできる

くどうれいん

大学生の時、学生短歌会で短歌をやっていた頃から染野さんのことは大先輩として知っていたのですが、仲良くなったのは2年前。

染野太朗

エッセイ『桃を煮るひと』のサイン会に、僕が伺ったんです。

くどう

染野さんと話す時間が足りなくて、「明日の朝空いてますか?」って言って、一緒にモーニングでミックスジュースを2杯ずつ飲みながら(笑)初めて短歌の話をがっつりしました。

染野

僕の歌集の『初恋』が出た直後で、すごく感動したって話していただいて嬉しかった。それがきっかけで、今回の連載も声をかけてもらいました。

くどう

いい短歌を読むと、もう私がやらなくていいじゃん、みたいになる時があるんですけど、『初恋』を読んだ時は、私ももっと詠みたい!という気持ちにさせられた。ほかの先輩方から「どんどん書けなくなってくる、特に恋が書けなくなるよ」っていう、経験談でもあり呪いみたいな話も聞いて、私も書けなくなるのかなと思ってたところでもあったんですが、『初恋』を読んで、やっぱそんなわけないよなと思い、恋だけの連載をやりたいなと。

染野

加齢とともに、そういう情熱が失われるというのはあると思います。会いたくなって急に会いに行っちゃう、みたいな無茶なことができなくなる。

くどう

もし本当に書けなくなっていくんだとしたら、書けるうちに書かなきゃなっていう気持ちもありましたね。

今回の歌集の中で、一首好きな染野さんの作品を選ぶとしたら、「キッチン」をテーマにした「さびしいときみが言うとき〜」。染野短歌の好きなところが存分に入ってます。虹って消えるんだけど、消えない虹っていうものがあったとして、それが寂しさなんだって言われたら、今度から虹を見たら思い出しちゃう。

自分の生活の中に短歌が顔を出す瞬間があることが、作ったり、鑑賞したりすることの楽しさでもあるんです。寂しいって思った時に、「あ、消えない虹だ」って思うのがめちゃくちゃいいし、実際の虹を見た時に「うわ寂しいじゃん」って思う。新しい物の見方が付与されるところが面白い。

さびしいときみが言うときさびしさは消えない虹のようでさびしい

染野

染野

僕は、「会話」がテーマの「あなたからまばたきが来る〜」の歌。瞬きっていう、すごくちっちゃいものが大きな風になって、そこにさらに能動的に羽ばたくための羽が出てきて、自分の胸に来る。どんどんクレッシェンドしていきながら、恋の高揚感をしっかり映像化している。で、最後に好きって添えられた時、落ち着くんですよね。嚙み締めるような「好き」がある。

あなたからまばたきが来る風になり羽になりこの胸に来る 好き

くどう

くどう

染野さんの歌も、読んでいて畳みかけてくる寂しさがあるのに、3回の「さびしさ」が全部違う声色なんですよね。短歌の中では寂しさが虹になることもできるって、めちゃくちゃかっこいいことだよなって思います。

染野

短歌って僕が思うに、散文作品よりも知らず知らずのうちに、一首を繰り返し読んでしまうんですよ。書かれている感情や思考が、じわじわ広がっていく。そのじわじわと恋の親和性が高いとは思いますね。何回も読んでいるうちに、自分と照らし合わせて、そこわかるなあとか、確かにこういう時、自分もそういう気持ちだったのかもと気づくとか。短いけど、一首にとどまる時間がほかの言葉よりも長い。

くどう

短歌って限られた文字数だから、断片になる。でもだからこそ自分の輪郭を広げて読むことができて、強烈に響くこともあるのが面白いですよね。この本のどれか一首でも、誰かの恋に響けば嬉しいです。

くどうれいんと染野太朗
くどう/トップス28,600円、スカート43,000円(共にティーチ info@teechi.jp)〉