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作詞家・児玉雨子が選ぶ、現代を生き抜くためのブックガイド。キーワード:「恋愛のかたち」

変化のスピードが速い、時代の転換点に立つ私たちは今、どんな本を読めばいいんだろう。ロマンティック・ラブ・イデオロギーから変容し、変化の渦中にある恋愛。一人一人の価値観に基づき、多様な形の関係性が恋愛と定義されつつある。「恋愛のかたち」をテーマに、作詞家、作家の児玉雨子さんに5冊を選書してもらった。

illustration: Ayumi Takahashi / text: Yoko Hasada / edit: Emi Fukushima

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多様な価値観に揺れながら、次なる“スタンダード”を作っていくために

『きみだからさびしい』大前粟生/著、『私はあなたの瞳の林檎』舞城王太郎/著、『フィールダー』古谷田奈月/著
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(1)『私はあなたの瞳の林檎』舞城王太郎/著
何度告白してもかわされてしまう初恋の女の子との純粋すぎる恋、才能のなさに苦しむ美大生が惹かれる圧倒的な天才との恋、そして生きることそのものに思い悩む青年にとっての恋。恋愛をテーマにした短編3作を収録。講談社文庫/693円。

(2)『フィールダー』古谷田奈月/著
児童虐待、小児性愛、ルッキズム、ソシャゲ中毒、ネット炎上……現代社会に接続するあらゆる問題が盛り込まれた長編小説。猫を愛するという物語から「かわいい」という言葉の暴力性につながるなど、愛の本質や矛盾を丹念に書く。集英社/2,090円。

(3)『きみだからさびしい』大前粟生/著
主人公は複数の人と合意の上で交際する恋愛スタイル、ポリアモリーの女性を好きになった青年。相手のすべてを受け入れたくても割り切ることができない、嫉妬や思いやりを含む葛藤を通じて恋愛の本質を問う新しい価値観の小説。文藝春秋/1,650円。

一昔前のアイドルソングでは、プラトニックなものか、人を堕落させる異性愛という印象の色濃かった恋愛。それがここ数年、性的マイノリティの視点を含むあらゆる関係を恋愛として尊重する風潮になりつつあります。しかしコミュニティによって認識に差があるのも現状。

今は、社会全体が恋愛の次なる“スタンダード”を探っている時期と言えるのではないでしょうか。私自身、ラブソングの作詞には悩みながら向き合っています。特に気をつけているのは、明確に友情と恋愛、異性愛と同性愛を書き分けること。

同性愛を「友情のような恋愛」と表現することはその関係を軽く扱っていると感じます。聴き手の解釈は自由ですが、書き手としては曖昧にせず毅然と書くことで、それぞれの恋愛のあり方を尊重できるのではないかと思います。

恋愛を考え直す際の助けになった作品が大前粟生さんのです。恋愛小説は当たり前のように2人の恋仲が始まり、性的マイノリティの場合は説明なしで語られる方が先進的かもしれません。でも世の中の理解はそこまで追いついていないのが現実。

(3)は「恋愛とは何か」を確認しながら物語が進みます。性欲や嫉妬をはぐらかさず、わからないことをわからないと語り切る。ポリアモリーをはじめ多様なセクシュアリティの人たちが登場する読み応えと語りの細かさに、大前さんの誠実さを受け取りました。

一方で、また違う角度の誠実さを感じるのが(1)。一般的に、可哀想という同情心から付き合う関係もありますが、表題作ではその支配的な構造に対し、疑問とNOを倦(う)みながら振り絞っています。「あなたがあなただから好きなんだよ」という切実な恋心が一冊を通して書き切られています。

(2)は広義の愛の話。「かわいいと愛」をキーワードに、その境界線はどこか、可愛いと思えるものだけを愛していないか、という問いを多角的に詰問されているような、しかし目を逸らせない物語が繰り広げられます。その問いを考えることで、多様な恋愛の形を自分なりに捉えられるのではないかと思います。

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