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アートディレクター・尾崎大樹のキッチン。コンクリートの塊を中心に、武骨な道具類を揃える

男子厨房に入らず、なんて遠い昔のお話。料理好きの男たちのキッチンを訪ねてみると、そこには手際よく料理ができ、人が心地よく集えるための工夫がありました。好きな道具で、思う存分腕を振るえるキッチンは、クリエイティブが生まれる場所でもあります。

Photo: Satoshi Nagare / Text: Wakako Miyake

おいしいが生まれるところ。

1969年に建てられたヴィンテージマンション最上階に、尾崎大樹さんが家族と暮らす部屋がある。玄関を入ってリビングに通じるドアを開けると、コンクリートの塊が真っ先に目に入る。それが尾崎家のキッチンだ。

インテリアデザイン会社を主宰する尾崎さんが、5年前の引っ越しの際に自ら設計し、フルリノベーション。このシンク付きコンクリートカウンターも「一度、つくってみたかったんです」と言う。

そのために床を張る前に型枠にコンクリートを流し込み、3〜4ヵ月乾燥させるという手間のかけよう。幅250cmに奥行き100cm。高さは91㎝で、妻の身長が高いため、標準より高めに設定しているという。

普段料理するのは妻。6歳と2歳の息子たちの面倒を見ながら大忙しで料理するため、妻からのリクエストは掃除がしやすいことだった。
「ガスではなくIHにしたのも天板がフラットで掃除がしやすいから。コンクリートも拭くだけで汚れが落ちるよう加工しているので、シミもできずきれいさを保っています」

尾崎さんが料理をするのは主にキャンプに行ったときなどのアウトドア。なので、時間のある際に家でするのもキャンプ料理が中心になる。自慢は3ヵ月くらい前に手に入れた、〈パナソニック〉の《ロティサリーグリル&スモーク》。肉の塊やトースト、ピザなどが焼けるほか、スモークができるというのが、購入の動機となった。

「アウトドアでもスモークはよくやります。ただ都会で煙を出すわけにはいかないので、これはとても便利。スモークサーモンといったご飯のおかずになる料理以外にも、お酒が好きなのでいろんな種類のチーズをスモークしてアテにしたり。スモークすると割となんでもおいしくできます」

また、キッチン道具を揃えるのも、尾崎さんの担当。
「長く使えるものがいいので、鍋は鋳物や鉄が多いですね。ご飯も土鍋で炊きます。家電もホールフードマシーンの〈バイタミックス〉といった力強い、質実剛健なものが好きです」

カトラリーやキッチンツールがオフィス用のスチールキャビネットに収まっていたり、部屋の中にもドイツの駅で使われていた大きな時計や工場で使われていた照明など、工業製品的な丈夫で飾り気のないヴィンテージ品が配されている。

そこに色を添えるのが、息子も尾崎さんもたまらなく好きだという、ターコイズ系のブルー。
「青でも緑でもなく、水色でもない、微妙な色合いに惹かれるんです。スチールキャビネットの色もそうですね」

アウトドアでよく作る尾崎さんの料理は道具と同様、とてもシンプル。
「僕が作るのは火にかけておくだけといったものが多いですが、それでおいしいならいいかな、と思います」

BaNANA OFFICE代表・尾崎大樹 自宅キッチン
下ごしらえを済ませたら、火にかけておくだけの料理が得意。最近、調味料としても活躍しているのがニュージーランド〈アオテア〉のマヌカハニー。コクがあり、肉や魚にもよく合う。鍋類は、扱いやすく収納場所も取らない小さめなものが多い。コンクリートのカウンターにはスツールが置かれ、友人を呼んだ際の集まる場にもなっている。