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古着ショップオーナー・福田義竜のキッチン。広さを存分に生かし、気持ちが上がることを優先

男子厨房に入らず、なんて遠い昔のお話。料理好きの男たちのキッチンを訪ねてみると、そこには手際よく料理ができ、人が心地よく集えるための工夫がありました。好きな道具で、思う存分腕を振るえるキッチンは、クリエイティブが生まれる場所でもあります。

Photo: Satoshi Nagare / Text: Wakako Miyake

おいしいが生まれるところ。

神奈川・逗子の高台に立つ福田義竜さんの家は、築26年の木造戸建てをリノベーションしたもの。玄関を入ってすぐの階段を上がった2階は、約50㎡ものワンルーム。

南東側がキッチンスペース、北西側がリビングダイニングスペースになっていて、南東端から北西端まで10m近い長さがある。その間、柱が一本もなく抜け感は抜群。福田さんがこの家を選んだ最大の理由も、この抜けに惹かれたからだという。

「リノベーション前はキッチンが北西の片隅にこぢんまりとあり、カウンターに囲まれていました。それだとせっかくの広い空間を生かし切れていない気がしたので、位置を移動し、キッチンからダイニング、リビングまで自然に連続する、大きくどっしりとしたキッチンをつくりたいと思ったんです」

建築好きだったことからリノベーションは自身で図面を引いて設計。工務店に施工を依頼するだけでなく、コンクリートを打ったり、ペンキを塗ったりなどDIYもした。

そして、キッチンで最も気を配ったのがラインを揃えること。高さはもともとこの家に設置されていたフランス・ロジェール社のオーブンガスレンジの高さ86cmに統一。
シンクがはめ込まれたカウンターは、端が窓枠のラインの延長上に来るよう設置した。このカウンター、奥行きは1.2mほど。大勢が集まって同時に調理できるほか、両面に収納があり、食器や調理道具をしまう場所としても機能する。

「実は、この家に来るのは週2日ほど。東京に家族と暮らす家があるのですが、妻子はあまりここに来ることがないので、僕一人の空間でもあります。友達が集まることも多くて、みんなで料理をするのに、この広さはとても有効です。結局、カウンター周りで食べてしまうことも。空間がゆったりしているせいか、みんなだらだらと自由に過ごせるようです」

ただ、大きくしたいと望んでつくったキッチンだが、使い勝手を考えると「広すぎたかもしれません」と、福田さん。

「料理することを考えると、少しの動きで完結するほうが作りやすい。水場と切り場と焼き場の3ヵ所をスムーズに移動できる方が効率いいんです。たまに、もっとコンパクトにした方がよかったかな、と思うこともあるのですが、やはりそれだとこの空間に合わないので、仕方ないですね」

メゾンY・ジャンヌバレ代表・福田義竜
一人のときは近くの漁港で買ってきた魚を刺し身にするなど簡素だが、友人が来たときは元・料理人の腕を生かして大勢で食べて楽しい料理を作る。〈ストウブ〉や〈ル・クルーゼ〉の鍋は煮込みなどに。土鍋はご飯炊きに使っている。ロジェール社のガスレンジは4口。この高さと幅に合わせて左側の調理スペースを設計した。

そこには、毎日料理をするキッチンではない、という妥協もある。家のつくりに惚れ込んで手に入れた物件だけに、料理のしやすさよりも空間の見た目がより魅力的になることを重視した。

「水栓金具も大きい方がアクセントになると思ってドイツで買ってきたのですが、部品が日本の規格と合わず、オリジナルで部品を作る羽目に。ただ、たとえ不便でも、その場が気持ちいいってすごく大切なことだと思います」