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ラジオパーソナリティ・キニマンス塚本ニキが選ぶ、現代を生き抜くためのブックガイド。キーワード:「声を上げる」

変化のスピードが速い、時代の転換点に立つ私たちは今、どんな本を読めばいいんだろう。あらゆる面で過渡期を迎える今、社会を少しずつ良い方向へ導くのは、日々直面する不条理に対して、一人一人が能動的に問いを投げかける姿勢だ。「声を上げる」をテーマに、ラジオパーソナリティ、翻訳家のキニマンス塚本ニキさんに5冊を選書してもらった。

illustration: Ayumi Takahashi / text&edit: Emi Fukushima

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大切な存在を守るために、自分の軸となる信念を持つこと

『怒れ! 憤れ!』ステファン・エセル/著、『従順さのどこがいけないのか』将基面貴巳/著、『だから私はここにいる 世界を変えた女性たちのスピーチ』アンナ・ラッセル/著
左から
(1)『怒れ! 憤れ!』ステファン・エセル/著 村井章子/訳
ナチスやパレスチナ問題にも声を上げたステファン・エセルの著書。世の不正義に目をつぶることなく、怒り、行動を起こす大切さを説き、各国でベストセラーに。日経BP/品切れ。

(2)『従順さのどこがいけないのか』将基面貴巳(しょうぎめん・たかし)/著

理不尽な出来事に見て見ぬふりをしていないか。身の回りにあるあらゆる問題を解決する糸口は、自ら声を上げることにあると、政治、思想、歴史の文脈から論じる。著者は、ニュージーランドを拠点に活躍する政治学者。ちくまプリマー新書/924円。

(3)『だから私はここにいる 世界を変えた女性たちのスピーチ』アンナ・ラッセル/著 カミラ・ピニェイロ/絵 堀越英美/訳

マリー・キュリーやブラック・ライブズ・マター共同創設者アリシア・ガーザら、社会にさまざまな変革をもたらした女性たちの54本のスピーチを収録。フィルムアート社/2,200円。

声を上げるとは、言い換えれば、社会の中で主体性を持つこと。デモやマーチで、拡声器を使って政治に物申すような“過激”なイメージが先行しがちですが、変化の多い時代の中でも自分の足でしっかりと立ち、家族やコミュニティ、自然環境や平和な暮らしなど、大切なものを守るために必要となる意思表示のことだと私は考えています。それを積み重ねることで初めて、個々の生きづらさが少しずつ解消されていくのではないでしょうか。

声を上げる姿勢とは何かを気づかせてくれるのが『怒れ! 憤れ!』(1)。第二次世界大戦下でのレジスタンス運動にも参加した著者が説くのは「怒る」ことの大切さです。ここで重要なのが怒り=暴力ではないこと。むしろ暴力に対峙する非暴力の手段として、怒りの感情が有効だと説いています。

不安が広まる社会情勢の中、すでに各地で怒りの声は上がっていますが、対立する側を敵と見なして攻撃し合っても何も解決しません。「暴力は希望に背を向ける」との著者の言葉は、人権を守る闘いの中で忘れてはいけないことを教えてくれます。

一方で、現状に異議を唱えるのは勇気がいる。周りから白い目で見られるリスクをとってまでなぜ声を上げるべきなのかを考えさせられるのが『従順さのどこがいけないのか』(2)です。日本ではもともと、個よりも和を重んじる風潮がありますが、そこに潜む危うさを本書は明かします。

周囲に合わせることは、思いやりや協調性の表れのようで責任放棄でもあり、それが戦争や独裁者を生み出してきたのだと。詰め込まれた歴史上の事例や、哲学者、心理学者の視点を読んでいるうちに、自分も思考停止していないだろうか、と自問したくなります。

『だから私はここにいる 世界を変えた女性たちのスピーチ』(3)は実際に声を上げた人々のスピーチ集。登場するのはみな女性ですが、女性の権利運動のみならず、植民地支配や差別、環境破壊への抗議など扱うテーマは幅広いです。不条理な状況に見舞われた時、逃げるにしても闘うにしても、ロールモデルがいれば心強い。あらゆる逆境に立ち向かった先人たちの力強い言葉は、前を向く勇気と自信をくれます。

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