上質なキッズ映画は何度でも、サプリメントのように効く
名作と呼ばれるアニメ映画のなかには、子供をターゲットとした作品も数多く含まれる。キッズ映画はどうして大人の心を捉えるのだろうか。
宮崎駿監督は高校3年生の時、国産初の長編カラーアニメーション映画『白蛇伝』を観て「もっとすなおにいいものはいい、きれいなものはきれい、美しいものは美しい、と表現してもいいのではないか」(徳間書店『出発点』)と感じたという。キッズ映画の魅力もそこにある。
内容以外の部分にヒットが生まれやすい構造があるのかというと、予算やスケジュールなどの条件は中高生以上をターゲットにした映画と大きく違わず、むしろもっとコンパクトな規模の作品も多い。しかし、そこから傑作は生まれてきた。
笑いやかわいらしさという器に込められた「世の中には正しいこと、良いこと、美しいことがあり、素晴らしい未来が待っている」というメッセージこそ、時として大人に必要だ。高校生の宮崎監督が『白蛇伝』に救われたように。子供に真摯に語りかける作品は、同時に大人にも響く。
『装甲騎兵ボトムズ』などで知られる高橋良輔監督は、アニメは絵なので、気恥ずかしくなるような正論を描いても白々しくならない、とその魅力を説明する。アニメの力が最大限に生かされているのがキッズ映画。世の中の“本音”に疲れた時、キッズ映画はサプリメントのように効く。これが、大人こそ何度も観たくなる理由なのだ。
『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』
古代文明に挑むジュブナイルSF
2006年以降の『ドラえもん』映画は、旧作のリメイクとオリジナルストーリーの両輪で展開中だが、本作はオリジナル脚本の快作。本作で描かれるのは、滅亡した古代都市、人類より進んだ文明を持つ宇宙人、生命進化の秘密、そしてタイムパラドックスの謎。『ドラえもん』がもともと持っているジュブナイルSFの側面を全面的に踏襲しており、今の子供には新鮮で、大人にはニヤリと楽しめる一作。
ちなみに巨像のオクトゴンやブリザーガが、実はクトゥルー神話からの引用になっているのもマニアックな注目ポイントだ。注目キャラクターは、二足歩行のゾウに似た動物パオパオ。藤子・F・不二雄作品『ジャングル黒べえ』で初登場したキャラクターだが、『のび太の宇宙開拓史』などにゲスト出演している人気キャラクターで、本作でもストーリーの鍵を握っている。
『ポケットモンスター みんなの物語』
人間とポケモンの群像劇
『ポケモン映画』と聞くと『ディアルガVSパルキアVSダークライ』('07)に代表される“怪獣映画”的なスペクタクル押しの作品というイメージを持っている人も多いはず。しかし、ピカチュウとサトシの出会いを描いた『キミにきめた!』('17)から『ココ』('20)までの4作は、ドラマティックなストーリーに力点が置かれ、そこが魅力になっている。
前作『キミにきめた!』がサトシとピカチュウの関係性ができるまでを丁寧に描いたことを引き継ぎ、本作では老若男女それぞれのポケモンとの関係性を描き、ポケモンのいる世界の魅力を改めて描き出した。登場人物の中ではお調子者でホラふきのカガチと彼に懐くウソッキーのコンビが楽しい。
『若おかみは小学生!』
大切な人がいなくなった日常を丁寧に描く
『細うで繁盛記』のような、周囲の不条理に対する“若女将”の苦労話を描いた映画、と思われがちだがそれは大きな誤解。本作の本質は、おっこが両親の死を受け入れる過程(喪の仕事)を、日々の仕事を通じて描いたところにある。
そんな日常描写を支えたのが丁寧な作画。掃除や食事などに代表される日常芝居は、『風立ちぬ』など宮崎アニメの作画監督で腕を振るったアニメーター・高坂監督の面目躍如といえる。季節の移り変わりを描く美術も魅力。
『映画 すみっコぐらしとびだす絵本とひみつのコ』
かわいくて切ない、ピュアな物語
サンエックスの人気キャラクター・すみっコぐらしがまさかのアニメ映画化。絵本の世界が舞台だけに背景美術が凝っている。すみっコたちはセリフをしゃべらず井ノ原快彦と本上まなみのナレーションだけで進行するのが、絵本の読み聞かせのようで作品の空気感にマッチしている。
謎のキャラ・ひよこ?の正体が発覚し、ラストに至る展開は大人も泣けると大評判となった。ちなみに第2作『青い月夜のまほうのコ』にも一瞬ひよこ?がカメオ出演している。
『BORUTO ボルト -NARUTO THE MOVIE-』
かつての主人公は、父になった
漫画『NARUTO』連載15周年記念作。七代目火影として里を治めるようになったナルトと、息子ボルトの関係性を縦糸にした劇場版。
すっかり大人となり火影の責任を引き受けたナルトと、実力不足だが生意気で親の気持ちなど構うことのないボルトの“青さ”の対比は、大人の観客の方がむしろ実感を持って味わえるはず。そのほかにもかつてのメインキャラクターたちが大人になった姿も登場する。アクションシーンをはじめ力の入った作画も見応えがある。