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星野概念

井上ひさし『手鎖心中』の栄次郎

名前:井上ひさし『手鎖心中』のの栄次郎

病状:(略)しかし、せっかく、……勘当される。婿に入る。女に狂う  と順に来たんだ。追い出されるところまで行ってみようじゃないか」と、おれはいった。

備考:絵草紙の作者として名を上げたいが才はない。栄次郎は、自ら勘当や手鎖の刑を受けて、茶番によって一旗揚げることを企てる。直木賞受賞作。文春文庫/590円。

松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』の佐倉明日香

名前:松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』の佐倉明日香

病状:「あーあー。ゲロでうがいしちゃってるよ」客席の一番前の席の男が、足をだらしなく投げ出して、見たまんまを垂れ流す。

備考:恋人と大喧嘩の果てオーバードーズで精神科病院の閉鎖病棟に運び込まれる主人公。その再生までを描く、深刻かつコミカルな作品。芥川賞候補作。文春文庫/448円。

お酒との付き合い方。

僕は飲むのもお酒の知識を得るのも好きですが、世間では肯定的な意見ばかりではありません。そのうちたばこのように肩身の狭い思いをするのではとヒヤヒヤしています。お酒についてどう思いますか? 好きなお酒はありますか? 僕のおすすめは日本酒なら竹鶴、ワインならヴォドピーヴェッツです。(精神科医・星野概念/40歳/男)

小野正嗣『九年前の祈り』の安藤さなえ

名前:小野正嗣『九年前の祈り』の安藤さなえ

病状:そのミミズは本物のミミズとちがって幼子のなかにあった感情や知性の土壌を豊かにしてはくれなかった。まったく逆だった。だからミミズが出てくるのを見ると恨みはつのった。

備考:引きちぎられたミミズのように大騒ぎする子を持て余すシングルマザーのさなえ。その胸にかつての言葉が蘇る。芥川賞受賞作。ほか3編を収録。講談社文庫/620円。

西加奈子『舞台』の葉太

名前:西加奈子『舞台』の葉太

病状:泥棒、と、日本語で叫んでも、必死でさえあれば、伝わったはずだ。(中略)だが、やはり必死、というものを、葉太は避けてきたのだった。ずっとずっと、避けてきたのだった。

備考:29歳の葉太は初の海外ニューヨークの初日で盗難に遭う。だが、恥を隠して届け出ず、旅は極限状態に。必死のもがきの先に彼が得たものは? 講談社文庫/550円。

島本理生『ファーストラブ』の聖山環菜

名前:島本理生『ファーストラヴ』の聖山環菜

病状:「動機はなんだって訊かれたときに、動機は自分でも分からないから見つけてほしいくらいですって。そういうふうには言いました」

備考:父親を刺殺した女子大生・環菜。臨床心理士の由紀は、事件についての執筆依頼から本人や周辺人物との面会を重ね、「家族」を紐解いていく。文藝春秋/1,600円。

志賀直哉『和解』の自分(順吉)

名前:志賀直哉『和解』の自分(順吉)

病状:こんな事を云っている内に父は泣き出した。自分も泣き出した。二人はもう何も云わなかった。自分の後ろで叔父が一人何か云い出したが、その内叔父も声を挙げて泣き出した。

備考:長女の誕生とその死など、いくつかの出来事をきっかけに生じた主人公と父との不和が、肉親関係のなかで和解に辿り着くまでのプロセスを描く。新潮文庫/430円。

深沢七郎『樽山節考』のおりんと辰平

名前:深沢七郎『楢山節考』のおりんと辰平

病状:本当に雪が降ったなあ! と、せめて一言だけ云いたかったのである。辰平はましらのように禁断の山道を登って行った。

備考:貧しい部族の掟を守り、胸の張り裂ける思いで息子は、母をおぶって楢山へ捨てに行く。1957年、当時42歳の作者デビュー作。ほか3編を収録。新潮文庫/460円。

筒井康隆『最後の喫煙者』のおれ

名前:筒井康隆『最後の喫煙者』のおれ

症状:喫煙者差別もついには魔女狩りのレベルにまで達した(中略)宗教とか正義とか善とかいう大義名分がある時ほど人間の残虐行為がエスカレートする時はないのだ。

備考:地上最後のスモーカーとなって嫌煙家と闘う小説家を画いた表題作「最後の喫煙者」ほか。「自選ドタバタ傑作集」として全9作を収録。新潮文庫/520円。

滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』の一平(私)

症状:過去から跳ね返ってくるのは、私がつくった過去ばかりで、そこにあったはずの私の知らないものたちは、過去に埋もれたままこちらに姿を見せない。
備考:2001年秋から11年春へ。初恋と東北へのバイク旅行とジミヘンのギターが織りなす、儚くもかけがえのない時間、記憶を巡る。芥川賞候補作。新潮社/1,400円。