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星野概念

村上春樹『風の歌を聴け』の僕、鼠、女

名前:村上春樹『風の歌を聴け』の僕、鼠、女

症状:秋が近づくと、いつも鼠の心は少しずつ落ち込んでいった。カウンターに座ってぼんやりと本を眺め、僕が何を話しかけても気の無さそうなとおりいっぺんの答えを返すだけだった。

備考:海辺の街に帰省した僕と鼠と女の子とが過ごした1970年の夏。ビールと音楽と文学のある青春の一片。群像新人賞を受賞した著者デビュー作。講談社文庫/450円。

吉本ばなな『どんぐり姉妹』のどん子、ぐり子

名前:吉本ばなな『どんぐり姉妹』のどん子、ぐり子

病状:どうして人はあたたかい言葉や優しい仕草が嬉しいんだろう、それは私がまだ肉体の段階では獣の側面を持っているからなんだ、そう思う。

備考:両親の死、祖父の介護などの苦しい時間を乗り越えた姉妹は、ネットの中の居場所「どんぐり姉妹」を開き、たわいのない言葉で人々の心を解く。新潮文庫/550円。

井上ひさし『手鎖心中』の栄次郎

名前:井上ひさし『手鎖心中』のの栄次郎

病状:(略)しかし、せっかく、……勘当される。婿に入る。女に狂う  と順に来たんだ。追い出されるところまで行ってみようじゃないか」と、おれはいった。

備考:絵草紙の作者として名を上げたいが才はない。栄次郎は、自ら勘当や手鎖の刑を受けて、茶番によって一旗揚げることを企てる。直木賞受賞作。文春文庫/590円。

松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』の佐倉明日香

名前:松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』の佐倉明日香

病状:「あーあー。ゲロでうがいしちゃってるよ」客席の一番前の席の男が、足をだらしなく投げ出して、見たまんまを垂れ流す。

備考:恋人と大喧嘩の果てオーバードーズで精神科病院の閉鎖病棟に運び込まれる主人公。その再生までを描く、深刻かつコミカルな作品。芥川賞候補作。文春文庫/448円。

西加奈子『舞台』の葉太

名前:西加奈子『舞台』の葉太

病状:泥棒、と、日本語で叫んでも、必死でさえあれば、伝わったはずだ。(中略)だが、やはり必死、というものを、葉太は避けてきたのだった。ずっとずっと、避けてきたのだった。

備考:29歳の葉太は初の海外ニューヨークの初日で盗難に遭う。だが、恥を隠して届け出ず、旅は極限状態に。必死のもがきの先に彼が得たものは? 講談社文庫/550円。

島本理生『ファーストラブ』の聖山環菜

名前:島本理生『ファーストラヴ』の聖山環菜

病状:「動機はなんだって訊かれたときに、動機は自分でも分からないから見つけてほしいくらいですって。そういうふうには言いました」

備考:父親を刺殺した女子大生・環菜。臨床心理士の由紀は、事件についての執筆依頼から本人や周辺人物との面会を重ね、「家族」を紐解いていく。文藝春秋/1,600円。

志賀直哉『和解』の自分(順吉)

名前:志賀直哉『和解』の自分(順吉)

病状:こんな事を云っている内に父は泣き出した。自分も泣き出した。二人はもう何も云わなかった。自分の後ろで叔父が一人何か云い出したが、その内叔父も声を挙げて泣き出した。

備考:長女の誕生とその死など、いくつかの出来事をきっかけに生じた主人公と父との不和が、肉親関係のなかで和解に辿り着くまでのプロセスを描く。新潮文庫/430円。

筒井康隆『最後の喫煙者』のおれ

名前:筒井康隆『最後の喫煙者』のおれ

症状:喫煙者差別もついには魔女狩りのレベルにまで達した(中略)宗教とか正義とか善とかいう大義名分がある時ほど人間の残虐行為がエスカレートする時はないのだ。

備考:地上最後のスモーカーとなって嫌煙家と闘う小説家を画いた表題作「最後の喫煙者」ほか。「自選ドタバタ傑作集」として全9作を収録。新潮文庫/520円。

滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』の一平(私)

症状:過去から跳ね返ってくるのは、私がつくった過去ばかりで、そこにあったはずの私の知らないものたちは、過去に埋もれたままこちらに姿を見せない。
備考:2001年秋から11年春へ。初恋と東北へのバイク旅行とジミヘンのギターが織りなす、儚くもかけがえのない時間、記憶を巡る。芥川賞候補作。新潮社/1,400円。

小山田浩子『工場』の古笛と牛山佳子とその兄

名前:小山田浩子『工場』の古笛と牛山佳子とその兄

病状:私はただ一生懸命に今までやってきたつもりだが、私の思う一生懸命さというものは実は何の価値もなかったのだ。それが証拠に今の体たらくだ。働きたくない。

備考:何を作っているのかわからない巨大工場で働く3人を通し、働くことや生きることの不安や不条理を描く。作家デビュー作の表題作ほか2編収録。新潮社/1,800円。