アフリカはストリートの知性に学ぶ
コロナウイルスによる経済不況、セーフティネットの崩壊、ポピュリズムの台頭。「日本が衰退途上国の道を辿ることは明らかです。アメリカのラストベルト地帯を震源とする経済格差や分断は、近い将来、きっと日本でも起きるはずです」と小田マサノリさんは危機感を示す。
貧富の差が広がり、移民が増えてグローバル化がさらに進み、失業などで国民のアイデンティティが揺らいだとき、ポピュリズムの台頭とともに登場したのが、トランプ大統領だった。
「アメリカで起きたことは必ず少し遅れて日本でも起こります。これまで日本は欧米をお手本にしてきましたが、これからの不安定な時代に参考になるのはアフリカの知性です」。
それは、長い奴隷制度の中で労働人口が根こそぎ奪われ、さらに植民地支配を経て、文字通り国がぼろぼろになる中、長い時間をかけて培われたしなやかな知性だ。その中で、まず注目すべきキーワードは「個」だという。
全体主義を止める
「個」の力
入門編としてオススメなのが、日本初のアフリカ系学長として注目を浴びた京都精華大学学長のウスビ・サコ氏の『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』。
サコ氏は奨学金でパリや中国を訪れたとき、アフリカ人が未開人扱いをされたり、就ける職業も限られている差別の現状を目の当たりにしてショックを受ける。
自分の尊厳がズタズタになったときに、自分自身をなんとか立て直した実体験から、日本の若者に向けて書いたのが本書だ。
「逆境の中で個としての自分を自力で回復させるレジリエンスこそが、今後の日本社会を生きるうえで必要な力になると思います。サコ氏の哲学はアフリカをベースに、ヨーロッパの個人主義を取り入れたもの。
それは、個々人が自己の責任を放棄して、独裁者を求めて全体主義に傾倒していった時代に警鐘を鳴らしたフロムの『自由からの逃走』かのようです」
自分が自分であることをあきらめずに社会や時代の変化に応じて成長し続けるために必要なスキルとは何だろう。そこで参考にしたいのが『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』。
日本に住む日本人であり、その出自はカメルーン人でもある著者がその半生をフラットかつユーモアをもって描いたコミックエッセイだ。
「大坂なおみさんで有名になりましたが、ミックスド・ルーツの人は今後も確実に増えていくでしょう。星野ルネさんのマンガからは“何人でもない自分”という立ち位置から寛容に社会を眺めるその視点を学べるはず。
そして特筆すべきは、マンガという日本のポップカルチャーで自身の表現を発表したことですね」
マイクロ共助のDIY福祉
とはいえ究極的には、人は一人では生きられない。『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』では、国の経済や福祉に期待しないタンザニア人が、DIYで共助のコミュニティを形成し、香港という海外でたくましくビジネスを切り拓いていくそのスキルと知性を知ることができる。
「小川さんは路上経済の研究の一環で、自身も路上で服を売り始めるんです。そこで気づくのは“シェア”という概念と、“ついでの助け合い”によるコミュニティの底力。
特に、収入が入ると携帯電話のアプリを使って仲間や家族に小銭を回し合う習慣は、金額も少額なので、お互いに負担や恩義をあまり感じずに“気楽に回せるカジュアルな経済”になっています。
日本政府は国民を公助する気がないようだし、地域共同体が崩壊して中間層が消滅したいま、不安定な世の中を乗りきっていくこうしたマイクロ共助は、これからの日本社会にとっても一つの手本になるのではないでしょうか」