搾取から身を守るための情報術
「情報の民主化」を促すと謳われたインターネットは、一方で“ネットを使いこなせる人”と“使いこなせない人”の間に「情報格差」をもたらした。広がった溝は、人々の経済や教育、文化など、あらゆるものの格差をも深刻化させていく。特に深刻なのは「お金」だとアーティストの長谷川愛さんは語る。
『リッチな人々』は、富裕層を研究対象に、彼らの富の源泉には様々な種類の資本があることを説き明かした一冊だ。
「リッチであるというのは単にお金を持っているというだけの話ではないです。この本では資本が経済資本、文化資本、社会関係資本(家族資本)、象徴資本に分類されていて、このすべてを手にしている人をブルジョアとしています。
そもそもブルジョアたちが代々お金を稼げるのはお互いのコネを資本として使っているから。ここで交換されているのも“情報”です。表向きには自由競争とか言いつつ、その実、世界は全くフェアではありません」
長谷川さんはアートを通して、男女、人種、動物、あらゆる境界を超えて、すべての生物が個々に主体性を持って通じ合うユートピアを目指す。そのためにも、「デジタル・ディバイド」と向き合うことが欠かせないのだ。
「私は金満主義は大嫌いです。だからこそ、お金持ちがどういう人間で、どういう技術でお金を得ているのかを知ることが、一方的な搾取から身を守るためにも大事だと思います」
ネットの深層の闇に目を向ける
良質な情報を探す技術を得ることは、格差の解消に資するばかりではない。フェイクニュースが飛び交う昨今、その技術は身の安全のためにも重要だ。
「情報格差とはまずこの“ググる”技術に関わるものだと思います。検索ワードを知らなければアクセスできない情報が無数にある。さらに言うと、インターネットには“ググる”だけでは辿り着けないレイヤーも存在します」
それは「ダークウェブ」と呼ばれるGoogleやYahoo!で検索してもヒットしない特殊なネットワーク上に構築されたウェブ空間のこと。そこでは違法な麻薬や武器などの取引が行われており、2018年に大きく報道された仮想通貨NEMの流出事件など多くの犯罪との関係も指摘されている。
ホワイトハッカー(企業や個人のデータを盗み取るハッカーから情報を守る仕事)のCheena『ダークウェブの教科書』は、ネットの深層世界についての基礎知識をまとめた一冊だ。
「もちろん、ダークウェブは危険な場所で、安易に足を踏み入れてはいけません。が、Googleが世界のすべてではないということは知っておいた方がいい。真偽は不明ですが“人が監禁されている様子”が延々と生中継されているサイトも噂されています。
こうした危険な世界があるということを知ることで、ケータイやクレジットカードのパスワードやSNSの投稿内容など、個人情報のセキュリティについてより注意を向けてほしい」
女性にこそ学んでほしい
危ない科学
長谷川さんが「特に女性に読んでほしい」と推奨するのが雑誌『ラジオライフ』と、『アリエナイ理科ノ大事典』だ。
「『ラジオライフ』で特集されている盗聴や盗撮の技術についての知識は、女性が敵から身を守る上で役に立ちます。同様に『アリエナイ理科ノ大事典』には悪徳商法でも利用される水素水の真贋や食品添加物が有害な理由など、具体的に解説している。
“科学”と聞くと、わかりにくいものだと敬遠する人もいるかもしれないですが、悪事を働く人は、私たちが“知らない”ことに付け込み、騙しに来る。
“安心で安全”だという信用で成り立っている社会ですが、敵を見極め、戦うための術を学ぶことが大切です」